小樽 グルービー / Groovy

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小樽 グルービー / Groovy

ジャズ人生の集大成はやっぱりジャズ喫茶だった

小樽「グルービー」ジャズ喫茶案内

マスターの野田弘之さんは、定年退職を迎える4、5年前から「ジャズ喫茶をやりたい」と真剣に考えるようになっていた。しかし、妻に相談をすることができたのは、定年が差し迫った3カ月前のことだった。妻の返事は「ご褒美ね。やるからには思い切ってやってください」。

開業資金に約1000万円かかったが、それを妻が許したのも、夫が三度のメシよりもジャズが好きなことを知り抜いていたからに違いない。妻からの条件は「ひとりでやってね、私は手伝わないから」というものだった。

「物件は定年退職してから探しました。オープンまでに2カ月かかりました。ここは前は喫茶店だったんですけど、当初はむきだしのコンクリートのままで電気も水道もついていませんでした。何もなかったから、ぜんぶ造りました。内装工事にかかった時間は1カ月ぐらい。資金は十分ではなかったので、やれる範囲のことだけをやりました」

「JBLパラゴンは、知り合いの紹介で横浜の人から300万円で譲ってもらったものです。アンプも買いました。それ以外はレコードもふくめてぜんぶ自宅で使っていたもの。家賃は月15万、光熱費は月3万ぐらい。細くても長く続けていければそれで満足です」

野田さんがジャズの魅力を知ったのは高校3年生のときだった。当時小樽にあったジャズ喫茶「ニューポート」に友達と入り浸った。高校を卒業するころには写真家を志すようになり、東京の芸術系学部のある大学に入りたかったが、一家の長男であった野田さんは、「兄弟が多いから働いてもらう」という親の反対で進学をあきらめ、地元の小樽市役所に就職した。

市役所に就職して5年後の1965年、23歳のときに札幌でアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの公演を見てから、野田さんのジャズ熱にふたたび猛烈な火がついた。

レコードを漁り集め、札幌に来る海外ジャズミュージシャンの公演はほとんど聴きに行った。日本のレコード会社が主催するニューヨークのジャズクラブ巡りツアーにも3回参加し、「スイートベイジル」や「ヴィレッジ・ヴァンガード」などの有名クラブもまわった。また国内では旅に出かけるたびに、見知らぬ街角でジャズ喫茶の匂いを嗅ぎつけては初めての店を探しあて、訪ねてまわった。

野田さんがジャズ喫茶をやろうと思ったいちばんの動機は、「小樽にバップが流れる店がなくなっちゃったものですから。ほんとは客でいたかったんですけど、店がないのなら自分が始めようと」。

階段下のエントランスから店内のいたるところに、ジャズにちなんだ絵やポスター、オブジェ、グッズが所狭しと飾られていて、ここはまるで野田さんのジャズ人生を集大成した博物館のような趣だ。

いまも野田さんが愛聴しているのは、マイルス・デイヴィス・クインテットのいわゆる“四部作”。1956年、たったの2日間で録音したマラソンセッションから生まれた『クッキン』『リラクシン』『ワーキン』『スティーミン』と題された4枚のアルバムだ。

店のトレードマークであるJBLパラゴンが最高の音を鳴らすのは、この50年代のモダンジャズのレコードがターンテーブルに乗ったときだ。(了)※2018年12月に閉店しました。

photo & text by 楠瀬克昌


小樽「グルービー」ジャズ喫茶案内

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小樽「グルービー」ジャズ喫茶案内

小樽「グルービー」ジャズ喫茶案内Groovy  グルービー

  • 店主:野田弘之/創業:2003 年7月23日
  • 住所:北海道小樽市稲穂1−3−13 JR「小樽」駅より徒歩7分
  • 営業時間:火曜〜木曜 17:00〜24:00 金曜、土曜15:00〜24:00 (休:日曜、月曜)
  • 席数:13席(喫煙可)
  • 所有ディスク数:レコード4,500枚、CD1250枚
  • ライブ:不定期
  • メニュー: コーヒー450円〜 ソフトドリンク各種300円〜、ビール600円〜、ウィスキー000円〜 チャージなし

<AUDIO>

  • ターンテーブル:メルコ3533/ アーム:SAEC/カートリッジ:シュアー V-15 TYPEⅢ、オルトフォン SPU-A/E GOLD /CDプレイヤー:マークレビンソン390SL
  • プリアンプ:マークレビンソン380SL/パワーアンプ:マークレビンソン335L
  • スピーカー:JBLパラゴン

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