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US版いーぐるTシャツを販売開始。

US版いーぐるTシャツを販売開始。

東京・四谷のジャズ喫茶「いーぐる」の支援グッズが大好評ですが、このたびアメリカでも独自の「いーぐるTシャツ」を制作して販売し、その利益をすべて「いーぐる」に寄贈するというプロジェクトが立ち上がりました。

この動きの呼びかけ人になっているのはロサンゼルスでMohawk General Storeというセレクトショップを経営しているKevin Carneyさん。彼と彼の奥さんのBoCarneyさんが展開するアパレルブランド「SMOCK」が「いーぐるTシャツ」を制作、販売することになりました。

Mohawk General Storeのこのページからこの支援Tシャツが買えます。日本からこのサイトで購入することもできます。ただ、アメリカ国内に比べると配送料はちょっと高くなるようです。

Tシャツは長袖と半袖の2タイプあります(写真はすべてMohawkGeneral Storeのものをお借りしました)。シルエットはけっこうタイトですので、ゆったり着たい人はワンサイズ大きめをおすすめします。商品ページの「Description」をクリックすると、ケヴィンさんからのメッセージが英語と日本語両方で掲載されています。それを以下に転載しておきます。

The jazz cafe or ‘Kissa’ has been a social tradition and a personal interest for decades. A few years back we met up with Katsumasa Kusunose in his hometown of Nagoya at a Jazz cafe that opened in 1968 called Jazz & Coffee Yuri.  We spoke about how Katsumasa had visited and photographed at least 400 of the 600 Jazz Cafe’s in Japan and the long standing tradition of the cafe’s and their owners passion for music and life.  Recently I saw a post by @jazz_kissa that mentioned a benefit t-shirt that was being produced in Japan to help raise funds for Masahiro Goto at the Eagle @eagle_jazz  Jazz Cafe in Tokyo.  We were interested in supporting in any way we could but Katsumasa explained that nothing was being exported out of Japan because of Covid so with their blessing we decided to print the t-shirts here in Los Angeles to raise money and awareness.  Together with speaker designer and builder Devon Turnbull (Ojas), @devonojas  our label SMOCK,  and artist and Ace Hotel Art Director Yusuke Tsukamoto (@katsuodesign ) we present number one in a series of t-shirt to support the music and anyone who can use a little extra right now. 

 

社会的な伝統であるジャズ喫茶や「喫茶」は、長年抱いてきた個人的な関心事のひとつでした。数年前、私は名古屋在住の楠瀬克昌さんと、1968年創業の名古屋のジャズ喫茶 「JAZZ&COFFEE YURI」 でお会いしました。日本にあるジャズ喫茶およそ600店のうち、楠瀬さんが少なくとも400店を訪れ、写真を撮ってきたその経緯や、ジャズ喫茶の長い伝統とジャズ喫茶店主たちが音楽に注いできた情熱、その生きざまについて語り合いました。先日、楠瀬さんによるインスタグラムへの投稿で、東京のジャズ喫茶「いーぐる」とその店主後藤雅洋さんが資金調達のために支援Tシャツを作って日本で販売していることを知りました。私たちはできることなら何でもサポートしたいと楠瀬さんに伝えたのですが、Covid-19の影響で支援グッズを買っていただいても日本から海外へそれを送ることが困難な状況にあるとのことでした。そこで、「いーぐる」店主とそのスタッフたちの同意を得て、私たちは支援金を集め、関心を高めるためにここロサンゼルスでTシャツをプリントすることにしました。この活動の呼びかけ人であるオーディオ・スピーカーのデザイナー&ビルダーのDevon Turnbull (Ojas) さん、私たちのレーベルSMOCK 、アーティストでありAce Hotelの アートディレクションを手がけるYusuke Tsukamoto(KATSUO DESIGN / カツヲ・デザイン)さんらと共に、音楽をサポートするための、そしていま音楽をサポートしたい人たちのためのTシャツシリーズ第1作をここに発表します。

 

 

話のきっかけは、私がインスタグラムで冊子『ジャズ喫茶案内VOL2 いーぐるの物語』と「いーぐる」オリジナルTシャツやパーカーの販売開始を告知したところ、 Kevinさんから「そのTシャツは超クールだね。アメリカでも絶対売れるよ」と声をかけてきたことでした。

Kevin さんとメールのやりとりをした後、SMOCKによる「US版いーぐるTシャツ」制作をすることになり、「いーぐる」後藤店主の了解を得たあと、いーぐるスタッフの山中知依さんを通して今回いーぐる日本版Tシャツを制作したENDS AND MEANS とのやりとりを経て、ロサンゼルスを拠点に活躍しているKATSUO DESIGN さんによるデザインのUS版いーぐるTシャツができあがりました。

日本版Tシャツに使われているトランペットのイラストは後藤店主の奥様が描かれたものだそうですが、US版のグラフィックはKATSUO DESIGNさんによるものです。トランペットから花束が出ている意匠を見てすぐに思い浮かべたのは、1967年(まさにいーぐる創業の年)、べトナム反戦運動がアメリカで激しさを増していた時代に、デモに参加していた一人の若者が警備隊が突き出すライフルの銃口に一輪の花を挿したというエピソードです。「武器ではなく、花を」というスローガンがここから生まれ、サンフランシスコなどアメリカ西海岸を中心にLOVE&PEACEを求める運動が「フラワー・パワー」や「フラワー・ムーブメント」と呼ばれるようになりました。

アーティストでありACE HOTELのアートディレクションも手がけているKATSUO DESIGNさんは、アメリカ西海岸カルチャーを体現するピースフルな作風で人気を得ていますが、このTシャツはその特徴がよく出たものだと思います。いまCOVID-19によって私たちは世界規模の大災禍に見舞われていますが、それに加えてアメリカでは、ミネアポリスの警官によるアフリカン・アメリカン男性殺害事件をきっかけに、Black Lives Matterのスローガンのもと、差別と非合理に抗議する声が国中にあふれています。Kevin さんもMohawk General Storeのインスタアカウントですぐさま、「私たちは正義を求めます、私たちはこの国に変化が必要であることを痛感しています。世界中のコミュニティと連帯して立ち上がります」というメッセージを投稿しました。

不況にあえぎ、世の不条理に対する怒りが渦巻くなか、トランペットから花束がのぞくそのやさしい絵柄には、平和で安全な日常が戻ってくることを願いつつ苦しい毎日を送っている私たちの心を和らげてくれるものがあります。

また、US版Tシャツの背中には「いーぐる」で使っているオーディオ機器の名称がプリントされています。これはヴィンテージ・オーディオマニアでもあるKevin さんらしいアイデアですが、彼の親友でこのプロジェクトの呼びかけ人の一人でもあるDevon Turnbulleさんの趣向でもあるようです。

Devonさんはもともとはグラフィックやファッションを手がけるアーティストでしたが、やがて大学で電子工学を学んだ経験をいかして「OJAS」というハンドメイドのオーディオシステムブランドを立ち上げます。彼は神戸に住んでいたこともあり、ウエスタン・エレクトリックやアルテックなどのヴィンテージ・スピーカーを独自の手法で組み立てる日本のオーディオマニアたちの世界にはまりこみ、日本全国のオーディオマニアの家やジャズ喫茶、ジャズ・バーを訪れて研究し、そこから得たものを自身のサウンドシステムに反映させています。サーフキャンパーでもある彼が手がける「OJAS」は、代官山サタデーズサーフをはじめ、サタデーズサーフNYC の各ショップに導入されているので見たことがある人も多いでしょう。彼はふだんはブルックリンに住み、DJとしても活動していますが、昨年ニューヨークのブルックリンにオープンした「パブリック・レコード」のパフォーマンス・スペースに設置されている巨大なスピーカー・システムを手がけたことで注目を集めています。

そういえばKevin CarneyさんもDJをやっていたようです。彼はバーニーズ・ニューヨークなどで展開しているGeneric Costumeのデザイナーを経て、StussyやJermey Scott,Incaseなどの有名ファッション・ブランドのクリエイティブ・ディレクションを手がけ、2007年にGeneric Manというシューズ・ブランドを設立します。

Generic Manはイタリアやイギリスのオーセンティックな技術とアメリカ西海岸の現代的でシンプルでレイドバックしたテイストを融合させたシューズですが、Kevin さんは、最高の靴を作るために2007年におよそ4カ月かけてイタリアの靴工場を見学して回ります。そのときにミラノでファッション・ビジネスを学んでいた韓国出身の女性、Boさんと知り合い、2人は1年後に結婚し、そして2008年12月、ロサンゼルスのイーストサイド、 エコー・パークのモホーク・ストリートに「MohawkGenaral Store」をオープンさせます。

General Storeを日本語に訳すと「雑貨店」ですが、セレクトショップと呼んだほうが実態に近いでしょう。Carney夫妻がエコー・パークで店を始めたのは、このエリアにはアーティストやクリエイターが数多く住んでいるものの、彼らを楽しませ、そのニーズを満たすようなブティックがないことからでした。夫妻は「自分が欲しいもの、身につけたいもの」をコンセプトに、特定のカテゴリーにとらわれない、世界中の上質なものをセレクトしました。ドリス・ヴァン・ノッテン、プラダなどのハイブランドの衣類、ジュエリー、シューズ、鞄、ヨーロッパのミッドセンチュリーの家具、アート、本、フリーマーケットで見つけたもの、そしてヴィンテージのレコードプレイヤーやアンプ、スピーカー。ファッション・アイテムだけを扱うセレクトショップはたくさんありますが、オーナーの感性と審美眼をもとにここまで多様性に富み、かつ洗練された店は、このMohawkGeneralStoreぐらいかもしれません。

オープン当時はリーマン・ショックによる大不況のさなかでしたが、それにもかかわらず、Carney夫妻のコンセプトは大成功します。翌年にはLAのシルバーレイクのサンセット・ブルバードに新店を、 2017年にはサンタモニカに「モホーク・ウエスト」と呼ばれる姉妹店をオープンします。また2018年にはサンセット・ブルーバードに「SMOCK 」というオリジナルブランドの店をオープンします。

「SMOCK」は2016年にCarney夫妻が立ち上げた自社のアパレルブランドで、ミリタリー服を基調に、シンプルで機能的なミニマリスムを追求したものです。特筆すべきは、日本の布地や技術が多く採用されていることです。このブランドには日本のデザイナーや職人がたくさんかかわっています。

Kevin さんが日本のジャズ喫茶に興味を抱くようになったきっかけのひとつは、SMOCKの商用のために日本への出張を重ねていたからだと思います。

Kevinさんと私が知り合ったのは、2017年の春、私がインスタグラムを始めてまだ3カ月ぐらいのことでした。フォロワーはまだあまり多くなかったのですが、Kevin さんからとつぜん、「アメリカでジャズ喫茶のZINEを出してみませんか?」というメッセージが送られてきたのがきっかけです。以来、彼とは「ジャズ喫茶」を通した付き合いが続いています。

今回も、私がインスタグラムに「いーぐる支援グッズ」告知の投稿をしたら、ほんの数分後に「なにか私にできることはないか?」とリプライをくれました。

当初は「いーぐる」をアメリカでも支援するために生まれたプロジェクトでしたが、「US版いーぐるTシャツ」が出来上がった直後に、これをシリーズ化しようということになりました。第2作は、LAのレコードバーのための支援Tシャツになりそうです。

名古屋のジャズ喫茶「YURI」とケヴィンさん。店内でカレーライスを食べながら「ここはほんとにいいジャズ喫茶だねえ…」とご満悦でした。

なお、日本版いーぐるTシャツをはじめ、『ジャズ喫茶案内VOL.2 いーぐるの物語』などの支援グッズはこちらのサイトで購入できます。こちらもよろしくお願い申し上げます。

(了)

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