ジャズ喫茶案内

函館 想苑 / Soen

緑深き公園を眺めながら熱い珈琲とジャズを

桜の名所として函館市民に親しまれている函館公園は、明治12年に英国領事の発案をもとに一般から芸娼にいたる幅広い市民の寄付で生まれた日本でも珍しい公立公園だ。公園の造成や築山にさいしても市民がボランティアで参加して労働力を提供したという。

北海道初の公立図書館や動物園もこの公園内にあり、市民にとってこの公園は文字通り函館の誇りといっていい存在だ。

この函館公園の丘を登りきった高台に、この街でいちばん古いジャズ喫茶「想苑」がある。

山小屋風の建物は2つのスペースに大きく 分れていて、入ってすぐ左側には、壁一面に大きな窓のある喫茶スペースがあり、反対の右側に進むとJBLスピーカーやDJブース、ライブ用のグランドピアノが置かれたリスニングスペースがある。

「いまはこっち(右側)に座る人は滅多にいませんね。家でも音楽が聴ける時代ですから」とマスターの砂原秀秋さん。

創業は1959年。最初はクラシック音楽や映画音楽もかけていたが、60年代のモダンジャズブームとともにジャズ喫茶へと変わっていった。

店を始めたのは、砂原さんの義母にあたる山下美知さん。常連客だった砂原さんが美知さんの娘、栄子さんと結婚してからは、義弟も含めた家族でこの店を経営していた。

「私は函館生まれの函館育ち。ジャズを聴き始めたのは20歳のころに友達に勧められてでした。最初に好きになったのがMJQで、それからゲイリー・バートンなどビブラフォンの魅力にハマりました。函館のジャズ喫茶はいろいろいきましたけど、ここがいちばん好きでした。

「義理の弟はESPレーベルとか、フリージャズも含めてマニアックなものが好きでした。ですから、この店は主流派からフリージャズまで、なんでもかけていましたね。

「公園に近いこともあってジャズとは関係のないお客さんもいっぱいくるんですよ。真剣にジャズを聴いているお客さんは迷惑がるものですから、騒がしいお客さんには義母さんがカミナリを落とすことはたまにありましたね。でも会話禁止ということほどではなくて、マナーなどについては、うちは寛容だったと思います」

やがて砂原さんはサラリーマン生活を送ることになり、義理の弟も店の経営から離れていくが、独りで切り盛りをしていた義母の美知さんが高齢で動けなくなり、1991年にいったん閉店することになる。

しかし、閉店を惜しむ常連客の声や砂原さんのジャズ喫茶をやりたいという想いは消えず、12年後の2003年に営業を再開した。

いまは今年65歳になる砂原さんと奥さんの2人でこの函館最古のジャズ喫茶を守っている。跡を継ぐ者はいない。

メインメニューの「想苑オリジナルブレンドコーヒー」は昭和7年創業の北海道でいちばん古い珈琲店で、全国的にも人気の高い「函館美鈴」の豆を使ったもの。

深くコクのある味と香りを愉しみながら、窓の外いっぱいに広がる函館公園の緑を眺めて過ごすひとときは格別だ。

晴れた日には遠くに津軽海峡が見えるという。(了)

想苑

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