ジャズ喫茶案内

これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

東京・四谷のジャズ喫茶「いーぐる」での定期イヴェントの始まりは1988年のことだった。

「いーぐる」店主後藤雅洋氏の初めての著書『ジャズ・オブ・パラダイス』(JICC出版局)が好評を博したのを受けて、本の中で取り上げている101人のミュージシャンの計303枚のアルバムを毎週土曜日に2時間、解説付きですべてをかけながら紹介するという講演を2年間かけて行なった。

その後、レコード・コンサートを中心とする土曜日のイヴェントが定期化し、1991年6月8日 にはジャズ評論家副島輝人氏を司会に、当時ジャズ評論を手がけていた若手の論客たち6 名をパネリストとして迎え、「いーぐる」の第1回シンポジウム「いま、ジャズにとっての批評とは」が開催された。

後藤氏は、自著『ジャズ喫茶リアル・ヒストリー』(河出書房新社)の中で、この第1回シンポジウムは不調に終わったとしている。

パネリスト同士の突っ込んだやりとりがなく、各人の意見もジャズファンに訴えかけるものが稀薄だったという。

また、「あまりでしゃばらずに裏方に徹しようとしたことが裏目に出た」とも振り返り、これ以降は、自分は執筆活動などを通してジャズファンに伝えたいことを「愚直なまでに」伝えようと決心するいっぽうで、ジャズファンに対する強い訴求力を持った若手評論家の育成という目的から、1993年より「いーぐる連続講演」を始めることになったと経緯を説明している。

2016 年7月30日(土)、「いーぐる連続講演第593回 これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」が開催された。

主催は東京・四谷三丁目の「喫茶茶会記」店主福地史人氏。この福地氏をはじめ、東京・新井薬師「ロンパーチッチ」店主齊藤外志雄氏、東京・渋谷「渋谷SWING」店主鈴木興氏、東京・祐天寺「Kissa BossaUmineko 」店主中村大祐氏の4名の「新興ジャズ喫茶」店主をメインパネリストに、会場に駆けつけたジャズ喫茶関係者の声なども交えながら、午後3時30分から午後6時30分までの3時間にわたって意見発表が行なわれた。

会場は超満員、通路に設けた臨時の椅子席もまたたく間に一杯となり、立ち見客や店に入りきれなくて入場を断わられる客も出るほどの大盛況となった。このシンポジウムの模様を以下に再現する。

いーぐる連続講演第593回「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」パネリストたち。左から齊藤外志雄氏(ロンパーチッチ店主)、中村大祐氏(Kissa Bossa Umineko店主)、福地史人氏(喫茶茶会記店主)、鈴木興氏(渋谷SWING店主)

福地 これからのジャズ喫茶はどうなるのかを考えていくうえで、その基盤となるものを書き示した「これからのジャズ喫茶を考えるためのシンポジウム」と題したマトリックスをみなさんのお手元に配りました。

マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成
マトリックスの左側拡大版:マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成
マトリックスの右側拡大版:マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成

右側にYour’s Nextとある空欄は、参加者それぞれの考え方でここに妄想ジャズ喫茶を経営していただいたら面白いんじゃないかと思って設けました。小林秀雄の『考えるヒント』という本にもありますように、考えるということは結論がないので、考えつづけることが面白いなということで、みなさんの、これからのジャズ喫茶についての考えを足していきましょう。

そのなかで少しでも共有感覚がこの場で味わえたらいいなというのが今回のシンポジウムの趣旨です。まずは本題に入る前に、われわれパネリストの人となりを紹介しながら、それにちなんだ曲を1曲ずつかけたいと思っております。それでは、ひとりずつお願いします。では齊藤さんから。

齊藤 みなさんお暑いなかありがとうございます。それから立ち見のみなさん、本来なら私どもが立つべきなのですが、座って話をさせていただきます。すみません。しつこいようですが(ドリンクの)ご注文がまだのかたはいませんね? ぜんぶ(注文が)とおりましたですね? それでは始めさせていただきます。

中野のはずれ、新井薬師のはずれ、両方の駅からとても遠いところで「ロンパーチッチ」という店をやっております齊藤と申します。2011年の12月からはじめて4年半ぐらい、なんとか生きております。まずは1曲、私はハズレ玉なんですが、私がいちばん最初ということでごめんなさい、「私とジャズとの出会いの曲」ということでかけます。

中森明菜のアルバム『BEST Ⅱ』から「TATTOO」です(場内笑)。

中森明菜/BESTⅡ/ワーナーパイオニア/1988年リリース

ありがとうございました。私とジャズとの出会い曲、中森明菜の「TATTOO」でした。

私は1978年生まれなので私が11歳のときの曲です。明菜ちゃんがすごいボディコンで登場して、後ろでトランペットの3人が当て振りでやるんですけど、その3人の中のひとりがいまの芋洗坂係長…(場内苦笑)えー、ハズしました…すみません! 次の人からはちゃんとしたジャズがかかります。

ごめんなさい。ここでがっかりされた方、盛り返しますのでいましばらくご辛抱ください。よろしくお願いします。

福地 はい、ガチ系でいきます。私はいま「総合藝術茶房」と謳って「喫茶茶会記」を四谷三丁目でやっていまして、ジャズはメインじゃないようにみえるので、よくジャズ喫茶の諸先輩方からは白い目でみられています。

しかし、そもそもジャズはかけていまして、いまでも瀧口譲司さんによる「Groovy’s Music Studio」というジャズのレコードを聴く会や1975年から始まる歴史ある九谷ジャズファンクラブの例会を、それぞれ毎月1回開催していますし、益子博之さんと多田雅範さんによる、ニューヨークのダウンタウン、ブルックリンなどの新しいジャズを中心にかける「四谷音盤茶会」というイベントを年4回開催しています。

ふつうにジャズ喫茶としてやっていてもお客さんが入らなくて、苦渋の決断として、演劇、舞踊、文芸、書道、ベリーダンスなどの各種イベントで集客するいっぽうで、あとはほんとうのジャズの聴き手だけを集めた会を開いているわけです。

福地史人/喫茶茶会記店主/〝ミスタージャズ喫茶愛〟の異名を持つほどのジャズ喫茶ファン。渋谷・道玄坂のジャズ喫茶「音楽館」の後を継いだ「@groove」ではウェブマスターを担当、同店閉店後、2007年に「喫茶茶会記」をオープン。/喫茶茶会記:東京都新宿区大京町2-4サウンドビル 1F TEL03-3351-7904 http://gekkasha.modalbeats.com/

私がジャズを聴きはじめたきっかけは、複合的な要素がたくさんあるんですけど、そのなかのひとつが、1990年ぐらいに「いーぐる」で行なわれていた連続講演に参加したことでした。

店主の後藤さんが著書の『ジャズ・オブ・パラダイス』、私の青春の本でもあるんですが、そのなかの101人のミュージシャンを並べているところを1ページずつ毎週話をされるというものがありまして、たぶん僕がいちばん行ってるんじゃないかなと自負しているんですが、そこでジャズ喫茶のことを学びました。

その頃、後藤さんの「BIRD BOX」というチャーリーパーカーのボックスセットを説明する講演があって、その日だけなぜか客が少なくて、怖い空気感がみなぎっていて、ちょっとだらしのない感じの客がいたら、後藤さんが「もう帰っていいから。聴きたいやつだけがいろ、聴きたくないやつは帰れ、それがビバップだ」とおっしゃってて、人数少ないんで脱出もできなくて、どうしようかなという恐怖体験もありました。

お手元の資料に、私の友人からのメールをそのまま掲載したものがあります。そのなかに「私は、少ないけれども、私の言葉を聴きに来てくれる聴衆を愛している…なぜなら彼らは選ばれた人たちであり、文化的な自負を持った人たちだからです。」というビル・エヴァンスの言葉が書きだされています。

このメールは「茶会記」になかなか来られない友人が私を励ますために送ってくれたものですが、このビル・エヴァンスの言葉は、私の「いーぐる」での「BIRD BOXの体験」とある意味同じことを言っています。

後藤さんの、客が少なくとも本気でやっていくという怖いぐらいの真剣さ、そういうマインドがあるからこそ、私も店の客は少なくてもがんばろうと思っています。

四谷「いーぐる」店主/後藤雅洋氏

これから私がかけるのはディジー・リースというトランぺッターの『エイジアン・マイナー』というアルバムから「Spiritus Parkus(スピリタル・パーカス)」という曲です。

チャーリー・パーカーのスピリッツ(Parker’s Sprit)という意味のことを、ラテン語の「Spritus」とパーカーの名前をラテン語ふうに造語したParkusで韻を踏んだという、ビバップがよくやった諧謔的な文字の遊びなんですね。

セシル・ペインというバリトンサックス奏者の曲ですが、彼がどんな気持ちでおたまじゃくしを書いてパーカーのスピリットを伝えようとしたのか、ぜひお聞きくださいませ。

ディジー・リース/エイジア・マイナー/プレスティッジ/1962年録音

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「ろ過されたジャズ喫茶」を体験してきたのがわれわれの世代

中村 東横線の祐天寺で去年の11月に「Kissa Bossa Umineko (キッサ・ボッサ・ウミネコ) 」という店をはじめました中村と申します。

ウチの店はジャズ喫茶とはちょっと違いまして、ジャズやボサノバをちょっと大きめのBGMで流しているカフェという業態ですので、自分の店をジャズ喫茶と名乗ったことはないですし、逆に名乗ってはいけないのかなと思いながら店をやっています。

ですから、今日こういった場にお呼びいただいて非常に恐縮して緊張している次第です。

中村大祐/Kissa Bossa Umineko店主/1986年生まれ/横浜のジャズ喫茶「ダウンビート」でアルバイトをした後、2015年11月、「Kissa Bossa Umineko」をオープン。業界では最も若い世代のマスター。/Kissa Bossa Umineko:東京都目黒区祐天寺2-14-1クーカイテラス祐天寺1F TEL03-6303-0632 http://kissa-bossa-umineko.com/

それでは選曲にいきます。キース・ジャレットのアルバム『マイ・ソング』から「カントリー」。

これは私が中3か高1のときに、その当時はロックばかり聴いていたんですけど、映画が好きで『マーサの幸せレシピ』というドイツ映画をみて、すごく耳に残って、ネットで調べてみたらキース・ジャレットという人でした。

まだジャズがどんな音楽かもよくわかっていないころで、こんなきれいな音楽があるのかと。ジャズに目覚めるにはまだ時間がかかるんですけど、いちばん最初にジャズに触れたのがこれです。

うちの妻にも、葬式のときにはこれをかけてくれと言っています。ではお願いします。

キース・ジャレット/マイソング/ECM/1977年録音

鈴木 こんにちは。渋谷の神山町にある、さえないマンションの4階の一室で「渋谷SWING」という店をやっております鈴木と申します。よろしくお願いします。

神山町というのは、渋谷の高級住宅地として知られる松濤と宇田川町にはさまれたようなエリアでして、最近そのあたり一帯を、なんかダサい、〝奥渋(オクシブ)〟とかいって、〝裏原(裏原宿)〟にあやかった感じで盛り上げようとしているんですけど、盛り上がってはいません(場内笑)。

しかも住居用マンションの4階の一室でやっておりますので、とても来づらい、入りづらい場所になっております。今年の9月でオープン2年めになります。いちおうジャズ喫茶といってます。

今日聴いていただくのはみなさんご存知だと思いますが、『ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン』に収録されている「スイング・トゥ・バップ」。(原曲は)「トプシー」なんですけど。

これはジャズを聴くきっかけではないんですけど、僕は9つのときにカウント・ベイシーの演奏を聴いてジャズが好きになって、それ以来ロックとか若者の聴く音楽には触れずにジャズばっかり聴いてここに至るという感じなんです。

鈴木興/渋谷SWING店主/1969年生まれ/ジャズ〜ジャンプ・ブルースバンドBloodest Saxphone(ブラサキ)のトロンボーン奏者としても活躍。最新作は米国のベテラン・シンガーJewel Brownとの共演盤『ROLLER COASTER BOOGIE』(Mr.Daddy-O Records)/渋谷SWING:東京都渋谷区神山町16-4ヴィラメトロポリス4B TEL03-5790-9544 http://www.shibuya-swing.com/

小学生だとバカだしヒマなんで、けっこう本を読みまして、油井(正一)先生とか粟村(政昭)先生の本だとか。

それでひととおりオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドやキング・オリヴァーからオーネット・コールマンあたりまでは聴いたんですけど、出版された本が古いんで、その後のことは書いてないんです(場内笑)。そこで終わってます。「ビッチェズ・ブリューは問題作だ」みたいなところで終わってます。

好み的にもベイシーから入ったものですから、スイングジャズが中心で聴いております。看板にも「ジャズとムードミュージック」と表記してありまして、ジャズの周辺の1950年代までのムードミュージックなんかもかけますので、うちの店に来られたときに運の悪いときはそういうものがかかってます。

チャーリー・クリスチャンのこれは、たぶん中学にあがったころに、本に出ているレコードということで国内盤を買って、素直にかっこいいなと思ったんですけど、ひんぱんにいままで聴きつづけています。

チャーリー・クリスチャンというギタリストのすごさが身に沁みてわかってまいりまして、自分の中でのジャズにもいろんなイメージがありますけど、〝これがジャズだ〟と僕が思う演奏のひとつです。LPとしては初版になる、エソテリックの10インチ盤でお聴きください。

チャーリー・クリスチャン/ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン/エソテリック/1941年録音

福地 鈴木さんに質問なんですが、これからのジャズ喫茶について考えていくうえで、ジャズ喫茶ってモダン・ジャズ主体だと思うんですけど、ジャンプミュージックやジャイヴ、ムードミュージックをかけるのはすごく新鮮なんです。そのあたりでなにかご意見をいただければ。

鈴木 とくにないです。僕もモダン・ジャズも好きなんですよ、いちおう。うちに来られるお客さんもモダンが好きな人は9割です。

福地 若い人でもジャイヴとかリクエストするお客さんもいますよね?

鈴木 それはあのー、私のバンド仲間のチンピラたち。ふつうのお客さんはいないですね。

福地 予兆を感じたりすることはないですかね。これから増えそうだとか。

鈴木 まあ、ミュージシャンでバーをやっている友だちとかいるんですけど、むしろロックとかロカビリーの流れからジャイブ、ジャンプ、さらにスイングとかジャズをかける店というのはあるんですけども、ジャズの方面からそっちへ枝葉を伸ばすというのはあんまりないし、今後もないと思います。

ジャズ=モダン・ジャズというお客さまがほとんどのなかで、たまにニューオーリンズ・ジャズがお好きというかたもいらっしゃいますが、たいていはやっぱりジョージ・ルイスなんです。ディキシーというよりはプリミティブなニューオーリンズ・ジャズがお好きというかたはけっこういらっしゃいます。そういう方か、モダン・ジャズで、その間のスイング・ジャズとかビッグバンドがお好きという方はほんとうに少なくて。

自分はそこがジャズを聴き始めた発端であり、いまだに好きなのでして、そういうものをかける店があまりないなあ、じゃあ僕がやろうかなと思って店をはじめたんです。

ジャイブやジャンプもスイングもほとんど境界線がないので、店では合わせてそういうものをかけたり、自分でも演奏したりといった感じですね。

福地 ありがとうございます。ではこれから本題に入ります。まず私が作成したマトリックスから説明させていただきます。

【再掲】マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成
【再掲】マトリックスの左側拡大版:マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成
【再掲】マトリックスの右側拡大版:マトリックス「これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム」福地史人(喫茶茶会記店主)作成

ジャズ喫茶の隆盛時と現在、備考と分けていますけど、人によって隆盛時が60年代までという人もいれば、そうでもないという人もいると思いますけど、ただいえるのが、隆盛時が偉いようにみえますけど、そうではないということです。

ジャズ喫茶って、昔はお金になるビジネスだったと思うんです。ジャズに興味はなくてもお金になるからやってみようというオーナーも少なくなかったようです。

それが、レコードが家でも手軽に聴けるようになり、フュージョンブームやバブル崩壊などのいろんな要素でジャズ喫茶から客が離れるようになって、僕のイメージだと1990年代ぐらいから、ジャズ喫茶は現在のようになったと感じています。

隆盛時のころと比べると弱々しくみえるかもしれませんが、いろいろなことを経て、ほんとうにジャズが好きだから生き残ったわれわれの先輩格の店、ジャズ喫茶の残存勢力が陣形をつくりなおして、いまもジャズ喫茶をやっていて、われわれはそこに通っているというのが現状だと考えています。

鈴木さんは宇田川町にあった「スイング」、中村さんは横浜の「ダウンビート」、私は「音楽館」や「いーぐる」、斎藤さんは渋谷の「JBS」といった、淘汰されて生き残った、ある意味「ろ過された」ジャズ喫茶を体験した人が、いま店をやってみようとしている、そういう図式だと思うんです。

また、私は最初はカフェとかバカにしてたんですけど、古民家カフェとか、珈琲の味もすごい最強な感じになっていて、いまカフェが強度を持ち始めています。

ジャズ喫茶もカフェブームというもののなかに編入されつつあるという側面もあると思います。そういう状況の中でこれからわれわれはジャズ喫茶をどういうふうに展開していくかということを考えていく必要があると思います。

これからのジャズ喫茶を考えていくうえでベースになるものとして、ジャズ喫茶って本来どういうものなのか、その事例としてつぎの1曲を紹介したいと思います。

ギル・エヴァンスのアルバム『プリースティス』からタイトル曲「プリースティス」です。

最初にデヴィッド・サンボーンがソロをとり、つぎがルー・ソロフです。ソロフは職人的なトランぺッターなのでリーダーがちゃんとしてないとあまりちゃんとした仕事はしない人なんですけど、ここでは奇跡的にサンボーンより圧倒的にいいんです。

ようはギルの気合が入ってるということになります。今回はそのソロフのソロが終わるあたりまでをお聴かせします。

ギル・エヴァンス/プリースティス/ポリスター/1977年録音

福地 昔のジャズ喫茶は、ラジオ局のように、選曲したものを朝からシームレスにかけ続けるというかたちだったんですけど、放送局的認識のうえで、演奏者の意識をトランスデュースする、演奏者の考えていることをきちっとリスナーに伝える、ジャズ喫茶とは本来そういうものだと思っています。

ジャズ喫茶のスピーカーの大半はJBLという、PAでは世界ナンバーワンのモニター系のスピーカーが使われていますけど、ジャズ喫茶のスピーカーがモニター系というのは、演奏者の意図するものを忠実に伝えようという目的があったからだと思います。

この「いーぐる」のスピーカーもJBLなんですけど、こういうことがやれること事態が奇跡的で、「いーぐる」はすごいということなんですけど、一般的にはできづらいと思います。

これからのわれわれのあるべき姿というのはそういう店じゃないと思います。だけど本来あるべき姿は認識しておこうというのが私の考えでございます。

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続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶

次に、ジャズ喫茶のバー化の問題とかいろいろありまして、むかしはバー化は忌避したんだけど、いまは容認している傾向にあると思います。また、接客スキルは昔はだめだったんだけど、いまはふつうになっているとか。

ここらあたりの噛み砕き方が私はやや甘くて、ロンパーチッチの齊藤さんにお話いただければと思います。

齊藤 お手元の資料の2枚目に「持続可能なジャズ喫茶のために」という大上段に構えたタイトルと、その裏に「現在のジャズ喫茶、ふたつの類型」というタイトルのレジュメがありますが、この2つについてお話したいと思います。

持続可能なジャズ喫茶のために/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成

私は4年半、お店をやってきて、いろいろありました。まずこの資料の中に入っていく前に申し上げますと、最近、ご定年されたお父様方が、ジャズ喫茶をやるかといって始めるケースがあります。つぶれるんですね、1年ぐらいで。

そういうお話を聞くにつれ、すっごく腹が立つんですね。こっちは命削ってんのに定年でできたお金ではじめてみて、1年でつぶれちゃったけど人生いい経験になったなあというのは許せないんです。こっちは命削ってんだから、削ってほしいんですね。

このまとめはそういう思いをちょっとやわらかい言葉で書いたつもりなんです。読み上げつつお話したいと思います。これは私個人の意見にすぎません。ほかのパネリストの意見とすりわせたものではありません。けれども私自身は心からこれを信じています。

齊藤外志雄/ロンパーチッチ店主/1978年生まれ/2011年、東京都中野区新井薬師に「ロンパーチッチ」をオープン、「新感覚のジャズ喫茶」として人気を集める。今回のシンポジウムでは自ら「狂犬役」を買って登場。/ロンパーチッチ:東京都中野区新井1-30-6第一三富ビル1F TEL03-6454-0283 http://www.rompercicci.com/

ジャズ喫茶とは商売です。

商売というのはお金のためにやることです。文化事業ではないということを私は信じております。

いままでの福地さんのお話はずいぶんと文化に寄っていましたので、正直、私は聴いていてイラっとしていましたけれども(場内笑)、ジャズ喫茶は文化事業ではなく、ましてや趣味でもありません。お金のためにやる行為です。これは強く主張したいところです。ここから話が始まります。では商売とはなんでしょうか。

商売とは、始めるものではなく、続けるものです。

いいオーディオ機器を持っているからこれを活かすためにジャズ喫茶をやってみたい、老後のひとつの生きがいのためにやってみたいと思われる方は多いと思います。そしてジャズ喫茶をつくりました。しかし、オープンした、やったー! がピークではいけないんですね。続けていかないといけません。

続けていくとは何か。自己目的化だと思うんですね。食べるためにやるんです。「やったー」がゴールではいけません。

自己承認要求を満たすためにやるものでもないですね。続けるためにやるんです。始めちゃうとイヤでも続けるためにやることになるんですけど、そうなると、続けるという意志がないと心が折れちゃいます。

商売を続けるためには【売上】と【モチベーション】が必要です。

私は続けていくためには何が必要かなと考えたんですが、結局この2つが残りました。

まず売上げ、お金ですね。それからモチベーション。やる気がないと続かないですよね。この2つをなくさないために頑張るのが商売なのかなと。売上げとはなんでしょうか。

売上は【客数×単価】です。

もうほんとに厳然たる事実です。ビジネス講座みたいですね、すみません。

商売を維持するための最低ラインを認識しておくことが重要です。お家賃というのがあるんですね。お家賃は払わなくていいというケースもあるでしょうが、そうでない方はお家賃を払わないとけません。

家賃は払わなくていいという方でも売上げこそがモチベーションということはあります。たとえば一カ月の売上げが10万円だと心が折れるんじゃないかと思うんです。心が折れないためにはある程度の売上げは必要です。

話を戻しますと、ジャズ喫茶の世界で昔といちばん違うのはお客さんの数です。ずいぶんと少なくなっていると思います。

お客さんが少なくなっている以上は客単価をあげていかないといけないんですが、客単価がメニュー単価かというとそうでもないんですね。メニュー単価が低くてもたくさんオーダーがあれば売上げは増えるということになりますが、ここでジャズ喫茶という世界には、〝2杯目の壁〟という伝説があるんですね。

ジャズ喫茶のお客さんというのは、2杯目をぜったいに頼んでくれない。そういう伝説がございまして、これをなんとかしなくてはいけないんです。

寺島靖国さんの『JAZZ雑文集』(DU BOOKS)という本のなかに涙なくしては読めない一節があります。

茅場町の某ジャズ喫茶が閉店になったときの寺島さんの感動的なお話がそこに残されています。その話のあとに、「これからうちは2杯でいこう、2オーダーだ」と宣言している勇ましいエッセイもありまして、昔は読んでもなにも感じなかったものが、立場が変わるとこんなに泣けるものなのか…

福地 寺島オーナーのジャズ喫茶「メグ」の新井店長さんも会場にみえてます。

(ここで吉祥寺『メグ』の新井店長が客席より一言)

新井 寺島の言うことは半分以上はウソなので気をつけたほうがいいですよ。まともに受け止めると人生ムダになりますから(場内笑)。ジャズ喫茶のおやじが言うことってそういうものなので。半分はほんとうなんだけど、半分はウソですから(場内笑)。

齊藤 『JAZZ雑文集』、全700ページのなかで、20ページぐらいはほんとうにいいです(場内笑)。ぜひみなさんお読みになってみてください。

次にモチベーション、これが売上と同じくらい重要なんですね。

モチベーションは、【店をとりまく環境】ならびに【お客さまとの関わり】によって変化します。減らさないことが重要です。

「店をとりまく環境」って何かなと具体的に考えてみると、たとえば雑誌社からとつぜん電話がかかってきて、ジャズ喫茶特集であなたの店を使いたいんですって取材の申し込みが入ります。お店を始めて1年ぐらいだと気持ちがすごく盛り上がるんですね、やったー、ウチもとうとう認められたって。

しかし、当日、ものすごい遅刻してジャズについて何も知らない人がへラヘラ現れて、こっちが言ってることが伝わってるのかないのか、わからない感じで取材が終わって、それでゲラを送りますからねと言ってた期日よりも5日ぐらい遅れてゲラが送られてきて、急いでいるので今日中に送り返してくださいといわれて、それで読んでみたら話した内容とぜんぶちがってて、それを書き直して雑誌社に送る。そこまでぜんぶ含めても、雑誌社の取材というのは盛り上がります。モチベーションは上がります。

それから食べログ、これはモチベーションが下がります。あとはお客さまのSNS。お店の人間というのは業が深いもので、どうしてもエゴサーチしてしまいます。これもモチベーション下がります。

それから【お客さまとのかかわり】は、おもに下がります。いいお客さまでも残念ながらモチべーションはあんまり上がらないんですよね。とてもいいお客さまというのが1000人に1人ぐらいらっしゃって、そういうときはぐわーんと上がるんですけど、100人のうち95人ぐらいはいいお客さまで、残りの5人ぐらいがちょっとむずかしいお客さまで、そういうときに少しずつ削られていきます。

なかにはどかーんとこっちが落っこちるようなお客さんも。ただそこで、落としきらないでうまく明日につなげるということが大切ですね。モチベーションが大切だよといいながら下がる話しかできなかったんですけれど(場内笑)、なんとか落とさずにがんばっていくことが大切ですね。

(客席のウェブサイト『JAZZ協同組合』主宰 Jazz協同組合 組合長から質問)

Jazz協同組合 組合長 すみません、どういうお客さんがいいお客なんですか?

齊藤 いらしてくださって、ご注文をくださって、静かにお過ごしくださって、2時間半以内に帰ってくださるお客さまですね、それか、2時間以内に追加のオーダーをくださるお客さまですかね。3時間ぐらいたつとちょっと困っちゃいますね…。

福地 齊藤さんからは怒られてしまうかもしませんけど、私にとっていいお客さんというのはは〝ジャズ侍〟と呼んでいる種類のお客さんがいまして、はじめは怖い感じで入ってくるんですね。

それでCDばっかりかけてると、「この店はCDだけなんだなあ」と大きな声で…ほんとはよくないお客さんなんですね(場内笑)。 そのとき私はちょっとレコードで音を出して、お客さんの耳元へいって、目を合わさずに「枚数は少ないですけど、近い傾向のものあればなんかかけますから」って言ったら、その怖そうなお客さんが一転笑顔になって、「いやあ、店主のおすすめでいいから」と、そこで一気に友情が(場内笑)。後日その人がわきあいあいと女性を連れてきたり、ライブをやったりして関係が深まったり。

でもこれはイレギュラーなパターンでして、本来的には齊藤的ロジックが正しいんですけど、茶会記的事例もあると。ジャズ侍との友情関係(場内笑)。

斎藤 ジャズ侍のみなさま、ぜひ茶会記に足をお運びください(場内笑)。

いまのお話で気になることがありまして、おひとりさまでいらしたお客がおふたりさまになる、「おひとりさまからおふたりさま」問題という。

これについても寺島さんが、タイトルは忘れてしまいましたけど何かの本に書いてらして、ブロサッム・ディアリー好きの女の子がひとりで来たときにはよかったのに2人できたときにはうるさくなっちゃったという。

昔読んだときはへーっという感じでしたけど、いまは涙がこぼれ落ちるんですね。おひとりのときは理想的な客だったのに…。

そのとき私どもが声の大きさを注意してしまうと、だいたい、そのお2人とも失ってしまいます。

話がずれましたのでつぎに行きます。

ジャズ喫茶はどういうときにつぶれるのか。

ジャズ喫茶は【売上の見込みちがい】による資金繰りの悪化、ないしは開店時のモチベーションが維持できない【やる気の喪失】によって潰れます。

売上見込と申しましたけど、見込めるほどの華やかな売上なんて、もちろん私どもにはないです。夢を見ないというか、これぐらいはいけるはずだという考えだと届かないです。

見込みをかなり低く持っていただいて、私どものように生活レベルを下げていただいて、できれば霞を食うくらいまでいってなんとか続けていかないとということになります。

それから開店時のモチベーション、これはほんとにオープンのときはいちばん盛り上がっちゃうんですけど、どうしても維持できなくなっちゃうんですね。

そうすると開店時間がどんどん遅くなったり、臨時休業がどんどん増えていったり、「しばらくお休みします」という貼り紙が貼られたまま再開される日がこない、というような感じで閉店になってしまいます。

最後に、

続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶です。

ある店が惜しまれつつ閉店となったとき、ここは魂があるお店だったからお客さんと相容れない部分があったんだよな、本物だったからこそつぶれたんだよな、みたいに考える方って、とても多いと思います。または営業方針をライト方向に切り替えつつ続いている店について、ここは魂売っちゃってるよね、みたいに考え方も多いんじゃないかと思います。

でもやっぱり「続けないと」という思いがあります。「続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶です」、最後はこういう宣言でお話を終わらせいただきます。
(次ページへ続く)

ジャズ喫茶の接客でいちばん悩むこと

福地 今回は「ちぐさ」の島店長が来てくれていますので、ちょっとお話をお願いします。

 横浜、野毛のジャズ喫茶「ちぐさ」で店長をやらせていただいております島です。よろしくお願いします。

私が務めております「ちぐさ」は1933年創業でいちおう日本で現存する最古のジャズ喫茶といわれています。創業主と二代目が亡くなりまして、2007年にいちど閉店になりましたが、2010年に社団法人として発足し、2012年から営業を再開しました。

私はここにいらっしゃるほかの方々のように一国一城の主ということではなくて、法人に雇われた店長ということになります。

ちぐさは一店舗として経営する以外にも野毛という町をもり立てるための、町の共有財産としての側面も持っておりまして、ちょっと特殊な面もあります。だからといって私が適当にやっているわけではなく、お店も愛していますし、経営を任されていますので、経営という点で今日、お話ができればと考えております。

福地 いままでの話のなかで、どのような感想を?

 そうですね、「1杯だけ」というところは当店もまったく同じですけど、これはジャズ喫茶だけの悩みというよりは、飲食業界全体に共通する問題だと思います。

お客さまが、できるだけ安くあげようと、コストパフォーマンス重視があたりまえのように行なわれてしまうんですけど、私自身は、ジャズ喫茶というのはひとつの文化としてとらえておりますので、そういうものを愛するのであれば、そういう文化が持続するにはどうすればいいのかということを、お店側は当然ですが、お客様側にも考えるべき部分はあるのではないかなと。

この店に続いてほしいんだ、というものはあると思うんですね。ジャズ喫茶にしろバーにしろ、そういった場所が続くためには、みなさんのお金のちいさな積み重ねがあってはじめて続くものなので、いかに安くすませるかということだけでなく、いかに楽しむかという目線でお店に行っていただければと思うんです。

珈琲の楽しみ方には、たとえばお酒を飲んだあとのほろ酔いの状態でジャズを聴きながら飲むとか、いろいろあると思うんですね。お金を使うことは浪費ではなくて、2杯飲むことで見えてくる世界というものも私はあると思うんです(場内笑)。

福地 うまい、さすがです。これからのジャズ喫茶の展開のひとつですね。

中村 ウチはジャズ喫茶とは違うんで、カップル大歓迎です(場内笑)。カウンターにいつも女性がいると寄ってくる男性もいるという連鎖反応が起きますね。

ウチは半地下なので見えづらいんですが、そこでいいフィルターがかかっているのかなと。路面店だと誰でも入ってきちゃいますけど、ウチには団体のヨッパライが入ってきたことは開店以来、まだ一度もないです。

店の中が見えづらいので入る前にあらかじめ覚悟してくる。そこでイイ思いをすると、1回、2回、3回と来ていただける。お客さんも音楽を楽しむ店だということがわかっているのでバカ騒ぎしない。いいリピーターになってくれているという感じです。

鈴木 齊藤さんの冒頭の命を削っているという言葉を聞いて、自分は命を削っているのか。うーん、削ってねえなと。すみません(場内笑)。食費は削ってますよ。

ウチは夜11時までの営業なんですけど、お客さんが残ってたりすると朝方までやることもあります。今日は人が少なかったなあ、早めにカタして11時きっかりに店出るぞ、と思ったら、ちょうど11時に電話がかかってきて、いまから10人いいですか?(場内笑)ことわりましたね、オレ。後悔しましたけど。

齊藤 そんなときは店に入れても後悔ですよね。

 ロンパーチッチさんは店内ではお静かにしてくださいと書いてあるとうかがったんですけど。

齊藤 私たちのお店では、メニューに「小さな声でお願いします」と書いていますね。

もちろんお客さまの過半数は、私どものお店をわかったうえでおいでなんですけど、商店街と住宅街の中間地点にありますので、なんとなくここにカフェがあるなと思って入ってくる人もいらっしゃるんですね。

メニューを見てはじめて会話は小さくと書いてあるのがわかる。そのことを紙に書いて入り口に貼り出してあるわけではないんですね。お店の外に貼り出した瞬間にお客さんは消えてしまいますから。

やっぱり貼り紙というのはものすごくお客さんは引くんですね、店内でも店外でも。そこにちょっとでもネガティブなことが書いてあると、本来であれば、その貼り紙に書いてあるようなルールに抵触しない人でも、気持ち的に萎えますね。やっぱりそんなお店はやめようかなという感じになります。そのへんはひじょうに悩むところですけど。

実際に何かあったときには個別対応ですね。そのときに流す血については、覚悟のうえではありながら、実際に血が流れると、ほんとうにヘコむんですけど。ただ、いろいろとてんびんにかけてみると、うちはやっぱり店の入り口には書けないですね。

ですから、店に入って元気におしゃべりなさっているお客さまに、静かな声でお願いしますと言いに行って残念な思いをさせてしまうこともあり。

また、お入りになったお客さまのおしゃべりの音量次第では、これくらいならこのまま通そうと引っ込んでいると、それよりも前に店に入っているお客さまが、なんでおしゃべりをそのまま放っておくんだよと残念に思われることもあり。

ただ、前にいるお客さまがすでに入店して2時間を過ぎていたら、もう2時間も静かだったんだからそろそろ許してよという気持ちにもなります。それはバランスといえばいいのか…いえないですね。

「ジャズ喫茶」という名前に奉仕しようと思うと生きていけなくなるようなところもあるとか私は言ってますけど、実際はなんだかんだいって私たちは「ちょっとお静かにしてください」って言っちゃうんですよね。

 僕、それすごくよくわかります。バランス感覚のむずかしさ。

さっきの齊藤さんの資料の中の「続けていくジャズ喫茶がいいジャズ喫茶です」というのはとってもそうだなと思うフレーズだったんですけど、ウチの場合は、昼間の12時から夕方の6時まではちぐさの伝統的なスタイルということで、基本的に会話禁止です。

お話をしているお客様をみかけると声をかけてすみませんとお願いするんです。

夜6時から閉店までは、お酒やカクテルとかメニューが増えるので、多少の会話ならOKとするんですが、この「多少」がむずかしいです。ほんとに日によりますし、そこにいるお客さまの性格と質にもよります。

それは音楽があってはじめてみんなが楽しんでいるんだとこちらが確信できるうような、いい「場」として成立しているときもあれば、明らかに居酒屋的に騒がれてしまうときがありますから。

齊藤 この話、永遠に盛り上がっちゃうんですけど(場内笑)。

 「飲食あるある」で、同業者がこうやって愚痴を言い合うのが楽しいという。

齊藤 接客ということについて、この機会ですので、私が作成した2枚目の表をもとに話をさせてください。

現在のジャズ喫茶、ふたつの類型/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成

ジャズ喫茶をみまわしたときに大きく 2つのタイプに分れます。オープンカウンターがあり、そこが機能している店、もうひとつはオープンカウンターのないお店。「コミュニケーション型」と「場所貸し型」とに分けています。あまりいい言葉が浮かばなかったのでこんな表現になってしまいましたけど。

左の「コミュニケーション型」にはオープンカウンターがあり、右の「場所貸し型」にはオープンカウンターはありません。

「ロンパーチッチ」にはカウンターがありません。カウンター的なものはあるんですけども、お客様の目線あたりまでの高い位置に壁があり、店員と客との目線が合わないように作ってあります。雰囲気としてはラーメン屋さんのカウンターに近いようなものです。

「茶会記」「渋谷SWING」「KISSA BOSSA UMINEKO」「ちぐさ」にはオープンカウンターがあります。

それでは、表の左側、「コミュニケーション型」のお店の特徴についてお話していきます。

「コミュニケーション型」は席数が少なく、店主ひとりでまわせる仕組みになっていて、オープンカウンターでお客さんとはジャズ談義やオーディオ談義といった会話が行なわれています。

そういった場でお店の人が「もう一杯いかがですか」といったやりとりをうまくできれば、客単価が高くなっていきます。

その反面、お客さまがお店に入るときの敷居というのはどうなのか、もちろんテーブル席があればそこに座ればいいわけですが、カウンター席はちょっと敷居が高いかなというのはあると思います。

とくにカウンター席に座ると、マスターが何かかけますか? といってくる世界ですね。私はこの何かかけますか? というのがすごく苦手で、ほっといてくださいと言いたいんですけど、でもそのやりとりからなんらかの新しい関係が生まれることもあって、そこが好きというお客さまももちろんいらっしゃると思います。

お店側としては、お客さまをほっとけばいいというわけではないので、接客スキルは相対的には高くなっていくと思います。

すみません、次は「客層」の欄についてお話しするんですが、気持ちがたかぶっているときにこの資料をつくったものですから、言葉としては攻撃的になっているかもしれません。「コミュニケーション型」のお店にはこんなお客さまがいらっしゃるという例です。

まず音楽を聴くだけではなくて、音楽をダシにして話がしたいなという方。それからこれは意外とフォトジェニックな若い女性に多いんですが、ジャズについて知りたいんです、教えてくださいという方。なぜかお綺麗な女性って物怖じしないでグイグイ来る方が多い気がします。別のパターンとしては、怖いマスターにあえて話かけてみたいという肝試し感覚の方(場内笑)。

それから、これはちょっと棘のある言い方になってしまうんですが、店にきてお金を払った以上はマスターのジャズに対する熱い思いをきいて、あわよくばそれをSNSにあげて「いいね」がたくさんほしい、みたいな、言い方は悪いんですが〝コスパ感覚〟にすぐれた方。

それからもうひとついらっしゃるのが、カウンター慣れしてなくて、なんか話がしたいんだけど、特に話の引き出しがあるわけでもなくて、ただ座っていてあげるからオレを楽しませてくれみたいな方。

私の店はラーメン屋さんのように高いカウンターになっているんですが、それをものともせずにカウンタートークを繰り広げるお客さんというのが、最近は減ったんですが昔はよくいらっしゃっいました(場内笑)。とくにこの「かまってちゃんタイプ」の方にはよくきつい思いをしたことがあります。

「コミュニケーション型」の店で店主に必要とされるスキルとしては、もちろん話を聞く、する、お客さまと楽しい時間を維持することもありますが、そこで「もう一杯いかがですか」的な誘導ができて売上につなげていくことも必要されるというか、必要としてほしいです。

何時間も話をしても何も注文をしない、それがふつうという方が多くなってしまうと、私どもも含めてほかのお店もキツくなってしまうので、お店の方々にはなんとか、(長話をするときには注文も取るという)誘導技術を身につけていただきたいんです。

つぎに「場所貸し型」のジャズ喫茶について。

私どものような心が狭い店ですと(場内笑)、客同士の会話にも「もう少し静かにしてください」と割って入ることもあります。そういう店の接客スキルは低いです。私の接客能力は涙が出るほど低いです。

それから、ウチの場合は半分は「WiFiカフェ」になってしまっていて、ヘッドフォンを付けてる客ってどうなのだろうという問題があります。ここを話はじめると長くなります。

福地 ロンパーさんがえらいのはね、ヘッドフォンはつけないでくださいと書いてるわけでしょ、ウチはねえ、OKにしちゃってるのよ。つらいんですよ、わりと。

齊藤 お客さまが店に入ってきたときに、先にいるお客さまがみんなパソコンをカチャカチャやってて、なかにはヘッドフォンをつけていたりすると、「はたしてここはジャズ喫茶なんだろうか」問題が発生するのかなと。(ジャズ喫茶のつもりで来たお客さまに)こういうふうに思われちゃうことがつらいんですよ。

福地 将来的にはジャズ喫茶は「コミュニケーション型」と「場所貸し型」、どっちのほうにいくべきだとお考えなんですか?

斎藤 わたしは「コミュニケーション型」のお店ができる能力がなかったんです。

「コミュニケーション型」のお店ができる能力がない人間はもうあきらめるしかなかったのか、というときに「場所貸し型」もあるかもしれないよということは申し上げておきたかったです。

福地 「ちぐさ」はどっちですか?

 ウチとしてはもちろん音楽を聴いていただくために営業しているので、明らかに音楽とまったく無関係に盛り上がったり、音楽をまったく聴いていないというお客さまにたいしては、静かに聴いているお客さまへの配慮として「接客対応」しますね。

福地 手を汚しますよね

 そうですね、うーん、まぁ、でもお店によってカラーとかスタイルがあって、何か正解があるわけではないと思うので。

ジャズ喫茶って、せっかくそれぞれの個性があるんだから、それぞれがみんな生き残れるような流れをどうにか作れればいいなと思って、今日は来ました。

福地 島さんも中村さんも「ダウンビート」の次期店長もみんな同い歳でしょ? いま30歳ですよね。横浜はアツいな、かっこいいなと思いました。

では、島さんが持ってきてくれたジョン・コルトレーンの『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード・アゲイン』をかけてください、お願いします。

 はい、私の青春です。お願いします。ほんとはB面を聴いていただきたいんですけど、長いのでA面2曲目の「Introduction to My Favorite Things」。ジミー・ギャリソンのベース・ソロです。

ジョン・コルトレーン/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン/インパルス/1966年録音

(次のページへ続く)

新しいジャズ喫茶とは

福地 あのー、ジミー・ギャリソンのあとで、女性ヴォーカルをかけようかと思います。

昔はジャズ喫茶では女性ヴォーカルってあまりかからなかったんですけど、最近はそうでもなくて。この曲は、モニター・スピーカーと、私が持ってきた古いアメリカのウエスタン100Aというスピーカーで聴き比べをしようかと思っています。

かけるのは向田邦子の愛聴盤として知られるミリー・ヴァーノンのアルバム『イントロデューシング』から「ウィープ・フォー・ザ・ボーイ」。向田邦子の作品の中にミリー・ヴァーノンを聴きながら水羊羹を食べるという風流なものがあって、私が将来、2軒目をやるとしたら、海辺のひなびたところで向田邦子の本ばかりを集めた風流な店をやってみたいなと思ってます。「古民家カフェ:父の詫び状」みたいなものを(場内笑)。

そういうのもこれからのジャズ喫茶を考えるうえでありかなと。まずは「いーぐる」のJBLのモニター・スピーカーで聴きます。

ミリー・ヴァーノン/イントロデューシング/ストーリーヴィル/1956年録音

(終了後、ウエスタン100Aで同じ音源を聴こうとするが、なんらかの不具合によりきちんと音が出ず。)

福地 リハーサルのときはちゃんと音が出ていたんですが…。申し訳ありません。雰囲気だけでも少しはおわかりいただけましたでしょうか。それでは、次のトピックへ行こうと思います。

私の作成したマトリックスの裏に「セットリストからの人名抽出検索数による順位(アルファベット順)というリストがプリントされています。

2011年4月から2016年まで「茶会記」イベント「四谷音盤会」でかけられたミュージシャンの「セットリストからの人名抽出検索数による順位」

これは「茶会記」で3カ月に1回行なわれている益子博之さんと多田雅範さんによる、ニューヨークを中心とする新しいジャズをかける「四谷音盤茶会」というイベントのデータです。

音楽の中身がどう進化していくかということで、いろいろと考えたんですが、ここに抽出されたものがジャズ喫茶のこれからのコンテンツになるかどうかはわからないですけど、ご参考になるかと思いました。

今日はこのリストの検索数第1位、いまニューヨーク界隈でいちばん攻めている人だと僕は思っているメアリー・ハルヴァーソンが、ステファン・クランプとやっているデュオ、シークレット・キーパーのアルバム『Emerge』から「A Muddle Of Hope」をかけます。

Mary Halvorson,Stephen Crump:SECRET KEEPER/EMERGE/Intact Record/2014年録音

福地 客席の益子さん、フォローできます?

益子 いま聴いていて、隣にいた村井康司さんがこれは実はブルースだとおっしゃってて、それがわかる人はなかなかすごいなあと思っていたんですけど、ジャズ喫茶のコンテンツとしてはあまりおすすめできないと思うんですね。これじゃあ、あまりお客さんは来ないでしょうね(場内笑)。

メアリー・ハルヴァーソンは今36歳で、アメリカの有力ジャズ専門誌『ダウンビート』の人気投票には批評家投票と読者投票がありますが、批評家投票ではここ4、5年かならず3位以内に入ってきてます。

だいたい1位はビル・フリゼールで、2位と3位をパット・メセニーとメアリーが争っています。今年は3位がジョン・スコフィールドで2位はメアリーでした。

そういう意味では日本での知名度とか評価というのはアメリカとはだいぶん差があるなぁと。ただ、『ダウンビート』もいろいろアテにならない部分があって、マーケティング的な視点がここ何年かすごくあるなぁと思います。

カマシ・ワシントンも、これまでまったくリストにのっていなかったのが今年とつぜんトップのあつかいになってきたりするんですね。『ダウンビート』も急にそういうところを忖度しだしたというところがあって、アメリカでもジャズのマーケットがすごく変わってきていると思うわけです。

ジャズ喫茶のコンテンツということで言うと、カマシ・ワシントンとかもそうですし、従来のジャズファンがあまり聴いてこなかったかもしれないけれども、新しい市場ができてきていて、そういうものに対応していったほうがいいんじゃないかと思います。

たとえば、『Jazz The New Chapter』(柳樂光隆監修、シンコーミュージック・エンタテイメント)というムックのシリーズで扱われているような人たちのほうが、若い人たちの集客には役立つんじゃないかと思います。

毎年ニューヨークに行ってるんですけど、今年もブルーノート・ジャズ・フェスが一カ月間やってまして、セントラルパークの広いところでフリーコンサートをやっていたんですけど、そこにカマシ・ワシントンが出たら、フリー(無料)とはいえ、やっぱりものすごい集客力があるんですよ。

最初はシートを敷いて横になってビールを飲んでたりするんですけど、カマシが出るころには、そのシートをどけて立ってくれという状況なんですね。

メアリー・ハルヴァーソンみたいなアバンギャルドなものは個人的にはすごく好きなんですけど、商売には結びつかないかなと思います。

福地 柳樂光隆さんがJTNC(Jazz The New Chapter)で押している傾向のものが、今後はいちばん聴かれていくのかなと僕も思います。僕はあんまりそういうのは聴かないんですけど。

で、その彼が最近監修したマイルス・デイヴィスについての本MILES:Reimagined』(シンコーミュージック・エンタテイメント)について、明日(7月31日)この「いーぐる」の後藤さんと柳樂さんがトークショーを渋谷のHMV&BOOKS TOKYOで行なう予定なんですよね。この「マイルス本」は、すごいおしゃれな装丁で同時代性があって、古きよきものに新しい光をあてるという感じで、このマイルスについての新しい解釈の仕方で、マイルスの音楽の表情がすごく変わるという気がしますし、これからのジャズ喫茶のあり方とも関係しているかもしれません。

「ジャズ喫茶案内」というウェブサイトを運営しているジャズ研ジャズ喫茶部さんが、この本についてサイトで書評を書いています。何か一言あればお願いします。

ジャズ研ジャズ喫茶部 はじめまして。よろしくお願い申し上げます。さきほどパネリストのみなさんから出ました「もう一杯」問題について少しふれさせてください。

昔、京都に「しぁんくれーる」という有名なジャズ喫茶がありまして、星野玲子さんという、マイルス・デイヴィスとも親交のあることでも知られたママさんが経営をしていましたが、星野さんは、フェミニンなイメージがとても強いいっぽうで、ビジネスには常に厳しい方だったそうです。

函館に「JBハウス」というジャズバーがありまして、マスターは、今日ここにいらっしゃる村井康司さんの高校の先輩だったそうですが、70年代に「しぁんくれーる」でアルバイトをしていたそうです。そのマスターによると、星野ママは、「あの客は2時間過ぎているから追加オーダーを取ってきて」とスタッフにいつも命じたそうで、客からは積極的に追加オーダーを取るという経営スタイルだったそうです。そういうやり方もあるかなと思いました。

また、新宿の「DUG」なんですが、ここはスタッフがテーブル席まできて、「もう一杯いかがですか」とうながすんです。それが、「追加を頼めよ」という強制的なニュアンスのものではなくて「まだ足りないでしょう?」という感じなんですね。

そう言われるとこっちもつい「もっと欲しいです」と答えてしまうんですね。非常に洗練された二杯目の促進方法というんですかね、このスタイルはひとつの頂点だと思います。スタッフがあのぐらいに嫌味なく二杯目を誘えるのは、かんたんな従業員教育ではできないことなんだろうと思いました。

名古屋に「YURI」という有名なジャズ喫茶があります。一説によると日本でいちばん集客数の多いジャズ喫茶だそうです。その数字の根拠がわかりませんので、私は日本一と断定はできないんですが、とにかくお客さんがいっぱいくるんですね。

日曜日だと、お昼時にはお店の外に行列ができていることもあるんですよ。お目当てのランチを食べに来るんですけど、そのぐらい人気があります。

店は小さくて、20席ちょっとなんです。とうぜん客の回転をよくしないと駄目なんですね。

ではそのためにどうしているのかというと、客が食べ終わったり珈琲を飲み終わると、すぐに容器をさっと片付けちゃってテーブルの上はコップの水だけになっちゃうんです。

ふうつの店よりも食器を下げるタイミングはかなり早いんですが、それが嫌味なく自然にできちゃうんです。客は追加を頼むか、じゃあ店を出るかという選択しかなくなるんですね。そういう客の回し方もあると思います。

私は高知県の生まれなのですが、高知は人口あたりの喫茶店数が全国で1位です。2位か3位が愛知県です。

その高知で伝統的に行なわれている方法というのが、客が珈琲を飲み終わったあと、頃合いをみてお茶を出すんですね。

昔はこぶ茶だったんですけど、最近はふつうの緑茶が多いようです。

店としてはお茶を出してどうぞごゆっくりという体裁なんですが、客としてはお茶を出されちゃうと、うーん、どうしようかなってなりますよね。東京だと「ルノアール」とかの喫茶店が同じようなサービスをやっていましたよね。水じゃなくてお茶を出して退店をうながすという方法もあるかなと思いました。

話は変わりますが、さっきギル・エヴァンスとかジミー・ギャリソンを聴かせていただいたんですが、ジミー・ギャリソンのソロなどは本人の演奏以上にいい音じゃないかというほどの素晴らしいサウンドでしたよね。

ああいうものを聴くと「銭の取れる音やな」という気がします。音で銭をとるというのは、ジャズ喫茶の王道としてあると思います。

ギル・エヴァンスのレコードを聴いて、ああいいな、知らなかった、欲しいなとか、コルトレーンの『ヴィレッジ・バンガード・アゲイン』はいままでいいと思ったことはなかったけど見直した、もっと聴きたくなったと感じた人は少なくないと思います。

そして、アマゾンなりレコード屋なりでCDやレコードを買う人が出てくると思うんですね。そうなると、ビジネスにも影響を与えるし、文化的にもジャズシーンに寄与する面も出てくると思うんです。

ジャズ喫茶には、そういうことで貢献している面もあるはずだと思います。経営者の方には、モチベーションが下がりそうなときにはぜひ、そういう面も担っているんだということもお考えになっていただけたらなと思います。

最後に、これからのジャズ喫茶のコンテンツの話ですが、さきほど益子さんからお話をいただいたように、いまの新しいジャズというのは、若い人にウケると思います。

ただひとつ問題があって、これはいまのジャズ喫茶のハコというのは、基本的には50代とか60代とか、そういう年代の人たちに合わせてできているハコなんですね。

若い人が来ようと思うと、自分たちの感覚というよりも、おじさんたちがいっぱいいる世界に入っていかなきゃいけない、気分をちょっと上のほうにあげないと入れない世界なんですね。

それがあるから、いまのジャズのコンテンツを聴きたくてもなかなかジャズ喫茶に足を運べないというのがありまして、もし新しいコンテンツで勝負したいということでしたら、20代や30代の人たちが、自分たちのふつうの感覚でそのまま入れる、そういう店作りというのをしていかないと、たぶんこれまでのままだと、新しいジャズをかけても、店にいるのは、ほんとはバップを聴きたいと思っている昔からの客ばかりという、そういうミスマッチが起きてしまうのではないかと思います。

20代や30代からみてかっこいいなと思える店づくり、それは音でもいいですし、内装でもいいすでし、マスターの人柄でもいいですし、そういう営業努力が求められると思います。

そういう点では、「Kissa BossaUmineko」さんは、同世代の人たちとうまくやってるようで、いっけん邪道にはみえてもそういう展開もあるのかなと、今日お話をうかがってちょっと感じました。以上です。

福地 もうそろそろ終了の時間です。最後に一言ずつ、鈴木さんからお願いします。

鈴木 2杯目問題。僕も言ったことあるんですよ、もう一杯いかがですかと。

「お言葉に甘えて」と言われたんですよ(場内笑)。…なかなかうまくいかないんです。

中村 私はみなさんと比べてジャズはそんなに詳しくないんですが、自分よりも若い人にはこんなのいいですよとすすめられます。またおじさんたち、ジャズ侍には逆に新譜も含めて教えてもらっています。

若い人たちにジャズの裾野を広げたり、おじさんたちには教えてもらったりしながら、店ごと成長していけたらいいなと思っています。

齊藤 まず、イヤフォン、ヘッドフォンの話、お店の売上のことを考えたら注意とかはすべきではないんでしょうが、そもそもジャズ喫茶に来てイヤフォン着けてるなんておかしいだろうと思ってらっしゃる方は、この会場ではほぼ100パーセントだと思います。

ただ、この会場の外の広い世の中では、イヤフォンぐらいいいだろうという方が全体の95パーセントぐらいだったりするわけです。うるさくしてるわけじゃないんだし、音楽を聴いているほかのお客さまに迷惑をかけてるわけじゃないですから。

でも私たちは、ヘッドフォンはごめんなさいと言うようになりました。

そのときに自分を正当化するために考えたんですが、私たちはなんの権利があってお客さまの行動を制限できるんだろうか。

こじつけなんですけどこう考えることにしたんです。

私たちは、お客さんに奉仕するだけじゃなくてそれと同時にジャズの神にも奉仕しているんだ、ジャズの神への奉仕ということを考えたら、ジャズ喫茶というのは宗教施設である(場内笑)、そんな空間で神を冒瀆するような行為はいかんではないか、私たちはレコードをかけるという宗教的儀式をしている、お店に来る以上は、信者である必要はないけど、私たちの宗教行為に対してリスペクトを払ってほしい、というような思いがあります。

さっきアタマが飛んじゃって言えなかったので、いま言いました。

もうひとつ、ジャズ喫茶は宗教施設なんですが(場内笑)、「私は布教しているんだろうか」問題というのがあります。

これを間口にジャズをどんどん知ってほしいというような考え方を私たちは持たなきゃいけないのか、というのがあり、私はそれに対しては否定的なところがあって、このことについてもっと話が広がればいいなと思っているところで、時間がきてしまいました。ありがとうございました。

福地 もう時間ですね。今日はたくさんのジャズ喫茶関係の方々、諸先輩がお見えになっているなかで、十分にお話をうかがうことができなくて、たいへん申し訳ございませんでした。

最後に、われわれが住んでいる東京にちなんで、ボビー・ワトソンがリーダーで国内のジャズメンと共演した東京リーダーズビッグバンドをかけてシメとします。『ライブ・アット・サムデイ・イン・トーキョー』から「In Case you Missed it」。そろそろビールを飲みたくなりましたので、これで終わりとさせていただきます。皆様どうもありがとうございました。

ボビー・ワトソンwith東京リーダーズオーケストラ/ライブ・アット・サムデイ・イン・トーキョー/Red Records/1999年録音

(了)

構成・文/ジャズ喫茶案内  写真/bozzo

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