小樽 フリーランス

小樽 フリーランス

運河の近く、蔵の町でひっそりと輝く至宝

小樽-フリーランス-ジャズ喫茶案内©jazzcity

小樽運河には北海道の伝統的な洋風建築、木骨石造(もっこついしづくり)の建物がいまも多く残されているが、そこから少し離れてポツンと建っているのが、明治時代の蔵を改装した「フリーランス」だ。

「まだ小樽には蔵が残っていますけど、蔵というのは通りに面した商店の裏に、荷物を置く場所としてあるわけですね。だから蔵だけを借りて何かをやろうとするのはなかなか難しいんです。商店と蔵とのセットで借りないと。また、借りられたとしても両方をやれればいいけど、蔵だけとなると商店の後ろになっちゃうから店舗には向かないですよね。このあたりは戦時中、防火帯をつくるために商店や建物はほとんど取り壊されたのですが、たまたまこの蔵だけが残されたんです」とマスターの神田泰行さん。

「フリーランス」の蔵も木骨石造だが、これは、木柱の間に気泡のある軟石を張り付けた壁でできたもので、神田さんによるとPAを使わずに生で演奏したときに素晴らしい響きになるという。ピアノを置いた2階はライブや写真などの展示会を行なうスペースとして使われていて、2010年には写真家でもある神田さんが敬愛する森山大道の写真展を開催した。

神田さんは長野県に生まれ、東京に出て大学生時代を過ごした。

「ジャズを初めて聴いたのは高校 2年ぐらい。中学の同級生にマセたやつがいて、そいつの家にマイルス・デイヴィスのレコードが何枚かあったんです。最初からすげえと思いました。こんな音楽があったのかと。そのころ長野には善光寺のあたりにジャズ喫茶が1軒ありましたけど、1回ぐらいしか行ったことがなくて、ジャズ喫茶に通うようになったのは東京に出てからです。

「よく行ったのは神保町の『響』。窓が大きくてふつうのジャズ喫茶にはない明るい雰囲気でした。当時はジャズ喫茶人気がピークでいつも店は客でいっぱいでした。マスターもママも感じのいい人だったし、1年ぐらい毎日通いました。あとは阿佐ヶ谷に住んでいたので中央線沿線の店にはよく行きました。ジャズのレコードを買い始めたのはその頃からで、『響』でかかって気に入ったものを優先的に集めていました」

1973年に神田さんは東京を出て、長野には戻らずに小樽に流れつく。

「札幌は明治政府が作ったものですけど、小樽は海千山千の者たちがひと儲けしようとやってくる街なんですね。若気の至りで深くは考えていなかったんですが、これからどうしようという時期に小樽に来て、小樽とはとくに縁があるわけじゃなかったけど、ここで何かを始めようと思ったんです。

「小樽の海は北の方角に向いているから、太陽を背にして眺めるとすごくクッキリときれいに映るんです。そして、海と雪が混じった冬の景色が自分の気持ちによく合うんです」

神田さんが「フリーランス」を開業したときはジャズ喫茶人気も下り坂で、札幌の有名店が次々と閉店になっている時期だった。小樽には昔からジャズ喫茶が2,3軒あり、入れ替わってきているという。神田さんが小樽に来たときには「ニューポート」という「すごく安普請の店」があって、そこで天井から落ちてくるホコリを払いながら山下洋輔トリオのライブを見たこともあったという。

70年代の半ばごろまでは骨のあるレコードがあったと神田さんはいう。

「なんといってもコルトレーンでしょうね。そこからドルフィー やシェップ。でもチェット・ベイカーみたいなのも好きなんですよね。すごくだらしなくて演歌の世界のようなところがいいんですね。チェットが死んでからわ かったんですけど、チェットがシェップとやっている録音があって、チェットはもう酔っぱらって吹いているんだけど、それがすごく良くて、個人的にはそれが 私のベスト。あと、たとえばコルトレーンの『セルフルネス』でやってるロイ・ヘインズとか。ピタっと合ってはいないんだけど、ここでオレが叩かなきゃ誰が 叩くんだという感じではっちゃっきになって叩いてるでしょう。ひねくれてるからね、そういうところを見つけるとうれしくなっちゃって。だから、いつもの路 線でお茶濁して流しちゃっているのは私はダメなんですね。そういう意味ではコルトレーン以外ではミンガスも好きかな。あと最近ではミシェル・カミロ。

「大音量だとふつうのお客さんが来なくなっちゃうので無理と最初からあきらめてはいましたけど、音量が小さいとジャズ喫茶として期待してきた人はがっかりするしで、むずかしいですね。地方だと特にね、『専門性』というものが成り立たないから。

「最初はオーディオにも思い入れもあって、ラックスマンの真空管アンプでカートリッジもオルトフォンのSPUを使ってたりしてたんですけど、だんだんそこらへんはスポイルしてきちゃって、いまはフォステクスのフレンジのバックロードにヤマハのツイーターが乗っている自作のスピーカーを鳴らしています。『自作』といっても知り合いに作ってもらったものですが(笑)。

「それにしても、いまは焼肉屋でもどこでもジャズが流れていますけど、それはジャズが好きだからではなく、BGMとしてジャズがいちばん無難だったという消去法じゃないかと思うんですね。なんだか情けないですね」

自由を愛する人たちが集まる店になればと「フリーランス」と命名した神田さんは、穏やかな顔だが残念そうに語った。

しかし、ジャズ喫茶だからこそ創り上げることのできたこの小宇宙を愛してやまない客は多い。ジャズにどっぷりと浸かってきた神田さんの感性が磨き上げてきた至宝が、いまはたくさんの人をひきつけている。(了)

再修正フリーランス内観小樽-フリーランス-ジャズ喫茶案内©jazzcity
修正フリーランス外観蔵Free-Lance  フリーランス

  • 店主:神田泰行/創業:1985年
  • アクセス:JR「小樽」駅より徒歩7分
  • 住所:北海道小樽市色内2-9-5
  • TEL: 0134-27-3646  HP:あり/SNS:なし
  • ライブ:不定期
  • メニュー:コーヒー500円、3倍コーヒー600円、ソフトドリンク各種500円〜、ビール各種500円〜 グラスワイン550円〜 チョコレートケーキ350円〜 甘味各種550円〜 スパゲッティ750円〜、カレー、ピラフ750円〜

[フリーランスの関連記事:ジャズ喫茶フォトコレクションジャズ喫茶巡礼


「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

A D

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)