第1回 初夏の北海道をゆく

第1回 初夏の北海道をゆく

網走

北海道ジャズ喫茶巡礼/桂台駅2014年6月16日(月)

  • 06:06 釧路 JR釧網線普通
  • 09:16 桂台

朝一番の列車で釧路を出る。ゆうべ「鳥善」でもらったザンギ、油ものだからどうかなと思っていたのだが、朝からしっかり車内でぜんぶ食べてしまった。美味かった。

釧路から網走までのJR釧網線は、釧路川をずっと脇に眺めながら湿原のまっただなかを走っていく野趣に富んだ路線だ。

北海道ジャズ喫茶巡礼/釧路平原湿原を抜けたあとはエゾシカがよく列車を止めることがあるという原生林の中を走る(実際、われわれが乗った列車も一度止まった)。家人は昔、このあたりをクルマで旅行したことがあるそうだが、自動車道とはまったく違った景色だという。

整備された自動車道路とは違い、原野のまっただなかを分け入り走っていくのが北海道の鉄路だ。

釧路から北にほぼ直進し、オホーツク海と出会ったところで列車は西に進路を変える。

初めて見るオホーツクの海は“なぎ”の状態でとても静かだった。

白波が牙をむく日本海のような荒々しさを思い描いていたのだが、大きな波がなく、まるで琵琶湖のようだ。あとで網走の人に尋ねてみると、オホーツクの海はふだんはいつも穏やかなのだという。

網走駅のひとつ手前の「桂台」で下車。

北海道の小さな駅には殺風景なものが多いのだが、アジサイなどの初夏の緑できれいに飾られたホームに降り立つ。

駅から大通りに出て、保育園も経営している由緒のありそうなお寺の前でグーグルマップをチェック。道を間違えていないことを確認してそのまま進むと、通りの反対側に喫茶店が見えてきた。

よく見るとひとりの男性が歩道に焙煎機を据えて珈琲豆の焙煎をしているようだ。

「デリカップ」のマスター、菊地さんだった。焙煎機からもうもうと出てくる黒煙が風で路上に流れている。

10:00 デリカップ

有名な映画の題名のせいなのか、「網走」というと最果ての地を思い浮かべてしまうが、実際に来てみると北海道の他の都市よりもなんとなく活気があって豊かさのようなものが感じられる。

土地の人によると、農業も漁業もうまくいっているらしい。この「デリカップ」も朝からずっと来店客が絶えず、この街の人々の余裕がうかがえる。

取材が来るということで、ママさんは『北海道ジャズ物語』を編集、執筆した畔田(くろだ)俊彦さんを呼んでくださっていた。北海道全域のジャズ喫茶やジャズシーンの歴史を1冊にまとめた方だ。畔田さんから貴重なお話を聴かせていただくこともできた。

◎デリカップの取材記事はこちら◎


  • 13:20 桂台 JR釧網線普通列車
  • 13:24網走
  • 13:29 網走 JR石北本線オホーツク6号
  • 17:12旭川
  • 17:36 旭川 JR石北本線普通列車
  • 17:40旭川四条

「デリカップ」でママさんが作ってくれたミックスサンドを食べた後、桂台の駅に戻り、そこから網走駅で乗り換えて旭川へ。

当初は富良野の景色を眺める路線で行くことを考えていたのだが、時間的に無理だったのでこちらのルートに。特急で4時間ちょっと、旭川で普通列車に乗り換えて旭川四条へ。

18:00 某店

壁に店名とイラストが描かれたアパートのような建屋の1階がその店だった。

扉を開けるとすぐに年配の男性と顔を合わせた。たぶん店主だろうと思い、取材の旨を伝えると、そんな話は聞いていない、それにウチは取材を受けないことにしているからという返事。先日電話で取材のお願いをして了解をいただいていたんですと伝えると、そういう記憶はないと。

なんとかお時間をいただけないかとふたたびお願いしてみたが、店主はウチよりも他の店を取材したほうがいいと、別の店の名前を挙げた。その店はジャズには熱心だが蕎麦屋であり、ジャズ喫茶ではないことを私は知っていたし、今日は日曜なのでその店は休業なんですよと伝えると、店主はちょっとがっかりしたようだった。

そこにちょうど買い物袋を下げた女性が店に入ってきた。店主の娘さんらしい。この人に頼めばなんとかなるかなと一瞬思ったのだが、「ごめんなさい、マスターは最近、耳が遠くなったせいか、よく聞こえなかったり、記憶があいまいだったりするんですよ」とのこと。

やりとりをしているうちに、なんだか取材の了解を得たものとこちらが勝手に勘違いしていたのではないかという気もしてきた。万事休す。

名古屋に帰ってからネットで調べてみると、この店主のことを気さくで面倒みのいいおじさんと書いている人も少なくない。

どこかでボタンの掛け違いをしてしまったようだ。

取材を拒否されることは珍しいことではない。店の名前が知れ渡ると全国からいろんな客がやってくるようになるが、中には店の人に面と向かって店の欠点などをあげつらい、辛辣な言葉を投げつける人もいる。

常連客ならともかく、そういう客に限って珈琲1杯で何時間も粘り、二度と来ることはないのだという。そうした客との接触に疲れて、取材お断りとなってしまうわけだ。

店内をちらっと見渡すと立派なスピーカーが並び、ジャズ喫茶としての居心地はかなりよさそうだ。

珈琲を一杯いただいてひと休みさせていただこうかなとちょっと思ったが、今夜は遅くに移動があるので、夕食をきちんと取らなければと思いなおし、結局、今回は旭川では1軒も取材することなく去ることになった。


  • 19:13 旭川 JR宗谷本線スーパー宗谷3号
  • 22:47 稚内

旭川駅の食堂で中華定食をとったあと、特急列車で今日の最終地、稚内へ。

暗闇の中をただ走る。6月なのに車内には暖房が入っていて、その暑さにはかなり参った。

通路を隔てて隣に座っている薄いセーターを着た中年女性は額や首からあふれ出る汗をタオルで拭い続けている。

北海道では真夏でも寒いと感じると家でストーブを焚くことがあるとはよくきくが、この暖房はたぶん運転手の北海道流の心遣いなのだろう。

暑さと渇きに耐えながら4時間半、ようやく日本最北端のJR駅、稚内に着いた。

深夜に光るホームのオレンジ色の明かりがさびしい。

北海道ジャズ喫茶巡礼/稚内駅

 

駅から歩いて5分ほどの民宿に泊まる。

まだ開業してそれほどたってはいないのだろう、新しくて木の匂いがする。そして清潔だ。明朝のチェックアウトが早いので素泊まりだ。経営者の家族らしい若い女性が応対してくれたが、遅い時間なのにやさしく、ていねいで気持ちがいい。後片付けがあるだろうから急いで風呂を浴びた。


「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

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