これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

 新しいジャズ喫茶とは

福地 あのー、ジミー・ギャリソンのあとで、女性ヴォーカルをかけようかと思います。

昔はジャズ喫茶では女性ヴォーカルってあまりかからなかったんですけど、最近はそうでもなくて。この曲は、モニター・スピーカーと、私が持ってきた古いアメリカのウエスタン100Aというスピーカーで聴き比べをしようかと思っています。

かけるのは向田邦子の愛聴盤として知られるミリー・ヴァーノンのアルバム『イントロデューシング』から「ウィープ・フォー・ザ・ボーイ」。向田邦子の作品の中にミリー・ヴァーノンを聴きながら水羊羹を食べるという風流なものがあって、私が将来、2軒目をやるとしたら、海辺のひなびたところで向田邦子の本ばかりを集めた風流な店をやってみたいなと思ってます。「古民家カフェ:父の詫び状」みたいなものを(場内笑)。

そういうのもこれからのジャズ喫茶を考えるうえでありかなと。まずは「いーぐる」のJBLのモニター・スピーカーで聴きます。

ミリー・ヴァーノン/イントロデューシング
ミリー・ヴァーノン/イントロデューシング/ストーリーヴィル/1956年録音

(終了後、ウエスタン100Aで同じ音源を聴こうとするが、なんらかの不具合によりきちんと音が出ず。)

福地 リハーサルのときはちゃんと音が出ていたんですが…。申し訳ありません。雰囲気だけでも少しはおわかりいただけましたでしょうか。それでは、次のトピックへ行こうと思います。

私の作成したマトリックスの裏に「セットリストからの人名抽出検索数による順位(アルファベット順)というリストがプリントされています。

2011年4月から2016年まで「茶会記」イベント「四谷音盤会」でかけられたミュージシャンの「セットリストからの人名抽出検索数による順位」 
2011年4月から2016年まで「茶会記」イベント「四谷音盤会」でかけられたミュージシャンの「セットリストからの人名抽出検索数による順位」

これは「茶会記」で3カ月に1回行なわれている益子博之さんと多田雅範さんによる、ニューヨークを中心とする新しいジャズをかける「四谷音盤茶会」というイベントのデータです。

音楽の中身がどう進化していくかということで、いろいろと考えたんですが、ここに抽出されたものがジャズ喫茶のこれからのコンテンツになるかどうかはわからないですけど、ご参考になるかと思いました。

今日はこのリストの検索数第1位、いまニューヨーク界隈でいちばん攻めている人だと僕は思っているメアリー・ハルヴァーソンが、ステファン・クランプとやっているデュオ、シークレット・キーパーのアルバム『Emerge』から「A Muddle Of Hope」をかけます。

Mary Halvorson,Stephen Crump:SECRET KEEPER/EMERGE/Intact Record/2014年録音
Mary Halvorson,Stephen Crump:SECRET KEEPER/EMERGE/Intact Record/2014年録音

福地 客席の益子さん、フォローできます?

益子 いま聴いていて、隣にいた村井康司さんがこれは実はブルースだとおっしゃってて、それがわかる人はなかなかすごいなあと思っていたんですけど、ジャズ喫茶のコンテンツとしてはあまりおすすめできないと思うんですね。これじゃあ、あまりお客さんは来ないでしょうね(場内笑)。

メアリー・ハルヴァーソンは今36歳で、アメリカの有力ジャズ専門誌『ダウンビート』の人気投票には批評家投票と読者投票がありますが、批評家投票ではここ4、5年かならず3位以内に入ってきてます。

だいたい1位はビル・フリゼールで、2位と3位をパット・メセニーとメアリーが争っています。今年は3位がジョン・スコフィールドで2位はメアリーでした。

そういう意味では日本での知名度とか評価というのはアメリカとはだいぶん差があるなぁと。ただ、『ダウンビート』もいろいろアテにならない部分があって、マーケティング的な視点がここ何年かすごくあるなぁと思います。

カマシ・ワシントンも、これまでまったくリストにのっていなかったのが今年とつぜんトップのあつかいになってきたりするんですね。『ダウンビート』も急にそういうところを忖度しだしたというところがあって、アメリカでもジャズのマーケットがすごく変わってきていると思うわけです。

ジャズ喫茶のコンテンツということで言うと、カマシ・ワシントンとかもそうですし、従来のジャズファンがあまり聴いてこなかったかもしれないけれども、新しい市場ができてきていて、そういうものに対応していったほうがいいんじゃないかと思います。

たとえば、『Jazz The New Chapter』(柳樂光隆監修、シンコーミュージック・エンタテイメント)というムックのシリーズで扱われているような人たちのほうが、若い人たちの集客には役立つんじゃないかと思います。

毎年ニューヨークに行ってるんですけど、今年もブルーノート・ジャズ・フェスが一カ月間やってまして、セントラルパークの広いところでフリーコンサートをやっていたんですけど、そこにカマシ・ワシントンが出たら、フリー(無料)とはいえ、やっぱりものすごい集客力があるんですよ。

最初はシートを敷いて横になってビールを飲んでたりするんですけど、カマシが出るころには、そのシートをどけて立ってくれという状況なんですね。

メアリー・ハルヴァーソンみたいなアバンギャルドなものは個人的にはすごく好きなんですけど、商売には結びつかないかなと思います。

福地 柳樂光隆さんがJTNC(Jazz The New Chapter)で押している傾向のものが、今後はいちばん聴かれていくのかなと僕も思います。僕はあんまりそういうのは聴かないんですけど。

で、その彼が最近監修したマイルス・デイヴィスについての本MILES:Reimagined』(シンコーミュージック・エンタテイメント)について、明日(7月31日)この「いーぐる」の後藤さんと柳樂さんがトークショーを渋谷のHMV&BOOKS TOKYOで行なう予定なんですよね。この「マイルス本」は、すごいおしゃれな装丁で同時代性があって、古きよきものに新しい光をあてるという感じで、このマイルスについての新しい解釈の仕方で、マイルスの音楽の表情がすごく変わるという気がしますし、これからのジャズ喫茶のあり方とも関係しているかもしれません。

「ジャズ喫茶案内」というウェブサイトを運営しているジャズ研ジャズ喫茶部さんが、この本についてサイトで書評を書いています。何か一言あればお願いします。

ジャズ研ジャズ喫茶部 はじめまして。よろしくお願い申し上げます。さきほどパネリストのみなさんから出ました「もう一杯」問題について少しふれさせてください。

昔、京都に「しぁんくれーる」という有名なジャズ喫茶がありまして、星野玲子さんという、マイルス・デイヴィスとも親交のあることでも知られたママさんが経営をしていましたが、星野さんは、フェミニンなイメージがとても強いいっぽうで、ビジネスには常に厳しい方だったそうです。

函館に「JBハウス」というジャズバーがありまして、マスターは、今日ここにいらっしゃる村井康司さんの高校の先輩だったそうですが、70年代に「しぁんくれーる」でアルバイトをしていたそうです。そのマスターによると、星野ママは、「あの客は2時間過ぎているから追加オーダーを取ってきて」とスタッフにいつも命じたそうで、客からは積極的に追加オーダーを取るという経営スタイルだったそうです。そういうやり方もあるかなと思いました。

また、新宿の「DUG」なんですが、ここはスタッフがテーブル席まできて、「もう一杯いかがですか」とうながすんです。それが、「追加を頼めよ」という強制的なニュアンスのものではなくて「まだ足りないでしょう?」という感じなんですね。

そう言われるとこっちもつい「もっと欲しいです」と答えてしまうんですね。非常に洗練された二杯目の促進方法というんですかね、このスタイルはひとつの頂点だと思います。スタッフがあのぐらいに嫌味なく二杯目を誘えるのは、かんたんな従業員教育ではできないことなんだろうと思いました。

名古屋に「YURI」という有名なジャズ喫茶があります。一説によると日本でいちばん集客数の多いジャズ喫茶だそうです。その数字の根拠がわかりませんので、私は日本一と断定はできないんですが、とにかくお客さんがいっぱいくるんですね。

日曜日だと、お昼時にはお店の外に行列ができていることもあるんですよ。お目当てのランチを食べに来るんですけど、そのぐらい人気があります。

店は小さくて、20席ちょっとなんです。とうぜん客の回転をよくしないと駄目なんですね。

ではそのためにどうしているのかというと、客が食べ終わったり珈琲を飲み終わると、すぐに容器をさっと片付けちゃってテーブルの上はコップの水だけになっちゃうんです。

ふうつの店よりも食器を下げるタイミングはかなり早いんですが、それが嫌味なく自然にできちゃうんです。客は追加を頼むか、じゃあ店を出るかという選択しかなくなるんですね。そういう客の回し方もあると思います。

私は高知県の生まれなのですが、高知は人口あたりの喫茶店数が全国で1位です。2位か3位が愛知県です。

その高知で伝統的に行なわれている方法というのが、客が珈琲を飲み終わったあと、頃合いをみてお茶を出すんですね。

昔はこぶ茶だったんですけど、最近はふつうの緑茶が多いようです。

店としてはお茶を出してどうぞごゆっくりという体裁なんですが、客としてはお茶を出されちゃうと、うーん、どうしようかなってなりますよね。東京だと「ルノアール」とかの喫茶店が同じようなサービスをやっていましたよね。水じゃなくてお茶を出して退店をうながすという方法もあるかなと思いました。

話は変わりますが、さっきギル・エヴァンスとかジミー・ギャリソンを聴かせていただいたんですが、ジミー・ギャリソンのソロなどは本人の演奏以上にいい音じゃないかというほどの素晴らしいサウンドでしたよね。

ああいうものを聴くと「銭の取れる音やな」という気がします。音で銭をとるというのは、ジャズ喫茶の王道としてあると思います。

ギル・エヴァンスのレコードを聴いて、ああいいな、知らなかった、欲しいなとか、コルトレーンの『ヴィレッジ・バンガード・アゲイン』はいままでいいと思ったことはなかったけど見直した、もっと聴きたくなったと感じた人は少なくないと思います。

そして、アマゾンなりレコード屋なりでCDやレコードを買う人が出てくると思うんですね。そうなると、ビジネスにも影響を与えるし、文化的にもジャズシーンに寄与する面も出てくると思うんです。

ジャズ喫茶には、そういうことで貢献している面もあるはずだと思います。経営者の方には、モチベーションが下がりそうなときにはぜひ、そういう面も担っているんだということもお考えになっていただけたらなと思います。

最後に、これからのジャズ喫茶のコンテンツの話ですが、さきほど益子さんからお話をいただいたように、いまの新しいジャズというのは、若い人にウケると思います。

ただひとつ問題があって、これはいまのジャズ喫茶のハコというのは、基本的には50代とか60代とか、そういう年代の人たちに合わせてできているハコなんですね。

若い人が来ようと思うと、自分たちの感覚というよりも、おじさんたちがいっぱいいる世界に入っていかなきゃいけない、気分をちょっと上のほうにあげないと入れない世界なんですね。

それがあるから、いまのジャズのコンテンツを聴きたくてもなかなかジャズ喫茶に足を運べないというのがありまして、もし新しいコンテンツで勝負したいということでしたら、20代や30代の人たちが、自分たちのふつうの感覚でそのまま入れる、そういう店作りというのをしていかないと、たぶんこれまでのままだと、新しいジャズをかけても、店にいるのは、ほんとはバップを聴きたいと思っている昔からの客ばかりという、そういうミスマッチが起きてしまうのではないかと思います。

20代や30代からみてかっこいいなと思える店づくり、それは音でもいいですし、内装でもいいすでし、マスターの人柄でもいいですし、そういう営業努力が求められると思います。

そういう点では、「Kissa BossaUmineko」さんは、同世代の人たちとうまくやってるようで、いっけん邪道にはみえてもそういう展開もあるのかなと、今日お話をうかがってちょっと感じました。以上です。

福地 もうそろそろ終了の時間です。最後に一言ずつ、鈴木さんからお願いします。

鈴木 2杯目問題。僕も言ったことあるんですよ、もう一杯いかがですかと。

「お言葉に甘えて」と言われたんですよ(場内笑)。…なかなかうまくいかないんです。

中村 私はみなさんと比べてジャズはそんなに詳しくないんですが、自分よりも若い人にはこんなのいいですよとすすめられます。またおじさんたち、ジャズ侍には逆に新譜も含めて教えてもらっています。

若い人たちにジャズの裾野を広げたり、おじさんたちには教えてもらったりしながら、店ごと成長していけたらいいなと思っています。

齊藤 まず、イヤフォン、ヘッドフォンの話、お店の売上のことを考えたら注意とかはすべきではないんでしょうが、そもそもジャズ喫茶に来てイヤフォン着けてるなんておかしいだろうと思ってらっしゃる方は、この会場ではほぼ100パーセントだと思います。

ただ、この会場の外の広い世の中では、イヤフォンぐらいいいだろうという方が全体の95パーセントぐらいだったりするわけです。うるさくしてるわけじゃないんだし、音楽を聴いているほかのお客さまに迷惑をかけてるわけじゃないですから。

でも私たちは、ヘッドフォンはごめんなさいと言うようになりました。

そのときに自分を正当化するために考えたんですが、私たちはなんの権利があってお客さまの行動を制限できるんだろうか。

こじつけなんですけどこう考えることにしたんです。

私たちは、お客さんに奉仕するだけじゃなくてそれと同時にジャズの神にも奉仕しているんだ、ジャズの神への奉仕ということを考えたら、ジャズ喫茶というのは宗教施設である(場内笑)、そんな空間で神を冒瀆するような行為はいかんではないか、私たちはレコードをかけるという宗教的儀式をしている、お店に来る以上は、信者である必要はないけど、私たちの宗教行為に対してリスペクトを払ってほしい、というような思いがあります。

さっきアタマが飛んじゃって言えなかったので、いま言いました。

もうひとつ、ジャズ喫茶は宗教施設なんですが(場内笑)、「私は布教しているんだろうか」問題というのがあります。

これを間口にジャズをどんどん知ってほしいというような考え方を私たちは持たなきゃいけないのか、というのがあり、私はそれに対しては否定的なところがあって、このことについてもっと話が広がればいいなと思っているところで、時間がきてしまいました。ありがとうございました。

福地 もう時間ですね。今日はたくさんのジャズ喫茶関係の方々、諸先輩がお見えになっているなかで、十分にお話をうかがうことができなくて、たいへん申し訳ございませんでした。

最後に、われわれが住んでいる東京にちなんで、ボビー・ワトソンがリーダーで国内のジャズメンと共演した東京リーダーズビッグバンドをかけてシメとします。『ライブ・アット・サムデイ・イン・トーキョー』から「In Case you Missed it」。そろそろビールを飲みたくなりましたので、これで終わりとさせていただきます。皆様どうもありがとうございました。

ボビー・ワトソンwith東京リーダーズオーケストラ/ライブ・アット・サムデイ・イン・トーキョー
ボビー・ワトソンwith東京リーダーズオーケストラ/ライブ・アット・サムデイ・イン・トーキョー/Red Records/1999年録音

 

いーぐる連続講演これからのジャズ喫茶を考える

(了)

構成・文/ジャズ喫茶案内  写真/bozzo

「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

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