これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

 ジャズ喫茶の接客でいちばん悩むこと

福地 今回は「ちぐさ」の島店長が来てくれていますので、ちょっとお話をお願いします。

 横浜、野毛のジャズ喫茶「ちぐさ」で店長をやらせていただいております島です。よろしくお願いします。

私が務めております「ちぐさ」は1933年創業でいちおう日本で現存する最古のジャズ喫茶といわれています。創業主と二代目が亡くなりまして、2007年にいちど閉店になりましたが、2010年に社団法人として発足し、2012年から営業を再開しました。

私はここにいらっしゃるほかの方々のように一国一城の主ということではなくて、法人に雇われた店長ということになります。

ちぐさは一店舗として経営する以外にも野毛という町をもり立てるための、町の共有財産としての側面も持っておりまして、ちょっと特殊な面もあります。だからといって私が適当にやっているわけではなく、お店も愛していますし、経営を任されていますので、経営という点で今日、お話ができればと考えております。

福地 いままでの話のなかで、どのような感想を?

 そうですね、「1杯だけ」というところは当店もまったく同じですけど、これはジャズ喫茶だけの悩みというよりは、飲食業界全体に共通する問題だと思います。

お客さまが、できるだけ安くあげようと、コストパフォーマンス重視があたりまえのように行なわれてしまうんですけど、私自身は、ジャズ喫茶というのはひとつの文化としてとらえておりますので、そういうものを愛するのであれば、そういう文化が持続するにはどうすればいいのかということを、お店側は当然ですが、お客様側にも考えるべき部分はあるのではないかなと。

この店に続いてほしいんだ、というものはあると思うんですね。ジャズ喫茶にしろバーにしろ、そういった場所が続くためには、みなさんのお金のちいさな積み重ねがあってはじめて続くものなので、いかに安くすませるかということだけでなく、いかに楽しむかという目線でお店に行っていただければと思うんです。

珈琲の楽しみ方には、たとえばお酒を飲んだあとのほろ酔いの状態でジャズを聴きながら飲むとか、いろいろあると思うんですね。お金を使うことは浪費ではなくて、2杯飲むことで見えてくる世界というものも私はあると思うんです(場内笑)。

福地 うまい、さすがです。これからのジャズ喫茶の展開のひとつですね。

いーぐる連続講演これからのジャズ喫茶を考える

中村 ウチはジャズ喫茶とは違うんで、カップル大歓迎です(場内笑)。カウンターにいつも女性がいると寄ってくる男性もいるという連鎖反応が起きますね。

ウチは半地下なので見えづらいんですが、そこでいいフィルターがかかっているのかなと。路面店だと誰でも入ってきちゃいますけど、ウチには団体のヨッパライが入ってきたことは開店以来、まだ一度もないです。

店の中が見えづらいので入る前にあらかじめ覚悟してくる。そこでイイ思いをすると、1回、2回、3回と来ていただける。お客さんも音楽を楽しむ店だということがわかっているのでバカ騒ぎしない。いいリピーターになってくれているという感じです。

鈴木 齊藤さんの冒頭の命を削っているという言葉を聞いて、自分は命を削っているのか。うーん、削ってねえなと。すみません(場内笑)。食費は削ってますよ。

ウチは夜11時までの営業なんですけど、お客さんが残ってたりすると朝方までやることもあります。今日は人が少なかったなあ、早めにカタして11時きっかりに店出るぞ、と思ったら、ちょうど11時に電話がかかってきて、いまから10人いいですか?(場内笑)ことわりましたね、オレ。後悔しましたけど。

齊藤 そんなときは店に入れても後悔ですよね。

 ロンパーチッチさんは店内ではお静かにしてくださいと書いてあるとうかがったんですけど。

齊藤 私たちのお店では、メニューに「小さな声でお願いします」と書いていますね。

もちろんお客さまの過半数は、私どものお店をわかったうえでおいでなんですけど、商店街と住宅街の中間地点にありますので、なんとなくここにカフェがあるなと思って入ってくる人もいらっしゃるんですね。

メニューを見てはじめて会話は小さくと書いてあるのがわかる。そのことを紙に書いて入り口に貼り出してあるわけではないんですね。お店の外に貼り出した瞬間にお客さんは消えてしまいますから。

やっぱり貼り紙というのはものすごくお客さんは引くんですね、店内でも店外でも。そこにちょっとでもネガティブなことが書いてあると、本来であれば、その貼り紙に書いてあるようなルールに抵触しない人でも、気持ち的に萎えますね。やっぱりそんなお店はやめようかなという感じになります。そのへんはひじょうに悩むところですけど。

実際に何かあったときには個別対応ですね。そのときに流す血については、覚悟のうえではありながら、実際に血が流れると、ほんとうにヘコむんですけど。ただ、いろいろとてんびんにかけてみると、うちはやっぱり店の入り口には書けないですね。

ですから、店に入って元気におしゃべりなさっているお客さまに、静かな声でお願いしますと言いに行って残念な思いをさせてしまうこともあり。

また、お入りになったお客さまのおしゃべりの音量次第では、これくらいならこのまま通そうと引っ込んでいると、それよりも前に店に入っているお客さまが、なんでおしゃべりをそのまま放っておくんだよと残念に思われることもあり。

ただ、前にいるお客さまがすでに入店して2時間を過ぎていたら、もう2時間も静かだったんだからそろそろ許してよという気持ちにもなります。それはバランスといえばいいのか…いえないですね。

「ジャズ喫茶」という名前に奉仕しようと思うと生きていけなくなるようなところもあるとか私は言ってますけど、実際はなんだかんだいって私たちは「ちょっとお静かにしてください」って言っちゃうんですよね。

 僕、それすごくよくわかります。バランス感覚のむずかしさ。

さっきの齊藤さんの資料の中の「続けていくジャズ喫茶がいいジャズ喫茶です」というのはとってもそうだなと思うフレーズだったんですけど、ウチの場合は、昼間の12時から夕方の6時まではちぐさの伝統的なスタイルということで、基本的に会話禁止です。

お話をしているお客様をみかけると声をかけてすみませんとお願いするんです。

夜6時から閉店までは、お酒やカクテルとかメニューが増えるので、多少の会話ならOKとするんですが、この「多少」がむずかしいです。ほんとに日によりますし、そこにいるお客さまの性格と質にもよります。

それは音楽があってはじめてみんなが楽しんでいるんだとこちらが確信できるうような、いい「場」として成立しているときもあれば、明らかに居酒屋的に騒がれてしまうときがありますから。

齊藤 この話、永遠に盛り上がっちゃうんですけど(場内笑)。

 「飲食あるある」で、同業者がこうやって愚痴を言い合うのが楽しいという。

齊藤 接客ということについて、この機会ですので、私が作成した2枚目の表をもとに話をさせてください。

現在のジャズ喫茶、ふたつの類型/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成
現在のジャズ喫茶、ふたつの類型/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成

ジャズ喫茶をみまわしたときに大きく 2つのタイプに分れます。オープンカウンターがあり、そこが機能している店、もうひとつはオープンカウンターのないお店。「コミュニケーション型」と「場所貸し型」とに分けています。あまりいい言葉が浮かばなかったのでこんな表現になってしまいましたけど。

左の「コミュニケーション型」にはオープンカウンターがあり、右の「場所貸し型」にはオープンカウンターはありません。

「ロンパーチッチ」にはカウンターがありません。カウンター的なものはあるんですけども、お客様の目線あたりまでの高い位置に壁があり、店員と客との目線が合わないように作ってあります。雰囲気としてはラーメン屋さんのカウンターに近いようなものです。

「茶会記」「渋谷SWING」「KISSA BOSSA UMINEKO」「ちぐさ」にはオープンカウンターがあります。

それでは、表の左側、「コミュニケーション型」のお店の特徴についてお話していきます。

「コミュニケーション型」は席数が少なく、店主ひとりでまわせる仕組みになっていて、オープンカウンターでお客さんとはジャズ談義やオーディオ談義といった会話が行なわれています。

そういった場でお店の人が「もう一杯いかがですか」といったやりとりをうまくできれば、客単価が高くなっていきます。

その反面、お客さまがお店に入るときの敷居というのはどうなのか、もちろんテーブル席があればそこに座ればいいわけですが、カウンター席はちょっと敷居が高いかなというのはあると思います。

とくにカウンター席に座ると、マスターが何かかけますか? といってくる世界ですね。私はこの何かかけますか? というのがすごく苦手で、ほっといてくださいと言いたいんですけど、でもそのやりとりからなんらかの新しい関係が生まれることもあって、そこが好きというお客さまももちろんいらっしゃると思います。

お店側としては、お客さまをほっとけばいいというわけではないので、接客スキルは相対的には高くなっていくと思います。

すみません、次は「客層」の欄についてお話しするんですが、気持ちがたかぶっているときにこの資料をつくったものですから、言葉としては攻撃的になっているかもしれません。「コミュニケーション型」のお店にはこんなお客さまがいらっしゃるという例です。

まず音楽を聴くだけではなくて、音楽をダシにして話がしたいなという方。それからこれは意外とフォトジェニックな若い女性に多いんですが、ジャズについて知りたいんです、教えてくださいという方。なぜかお綺麗な女性って物怖じしないでグイグイ来る方が多い気がします。別のパターンとしては、怖いマスターにあえて話かけてみたいという肝試し感覚の方(場内笑)。

それから、これはちょっと棘のある言い方になってしまうんですが、店にきてお金を払った以上はマスターのジャズに対する熱い思いをきいて、あわよくばそれをSNSにあげて「いいね」がたくさんほしい、みたいな、言い方は悪いんですが〝コスパ感覚〟にすぐれた方。

それからもうひとついらっしゃるのが、カウンター慣れしてなくて、なんか話がしたいんだけど、特に話の引き出しがあるわけでもなくて、ただ座っていてあげるからオレを楽しませてくれみたいな方。

私の店はラーメン屋さんのように高いカウンターになっているんですが、それをものともせずにカウンタートークを繰り広げるお客さんというのが、最近は減ったんですが昔はよくいらっしゃっいました(場内笑)。とくにこの「かまってちゃんタイプ」の方にはよくきつい思いをしたことがあります。

「コミュニケーション型」の店で店主に必要とされるスキルとしては、もちろん話を聞く、する、お客さまと楽しい時間を維持することもありますが、そこで「もう一杯いかがですか」的な誘導ができて売上につなげていくことも必要されるというか、必要としてほしいです。

何時間も話をしても何も注文をしない、それがふつうという方が多くなってしまうと、私どもも含めてほかのお店もキツくなってしまうので、お店の方々にはなんとか、(長話をするときには注文も取るという)誘導技術を身につけていただきたいんです。

つぎに「場所貸し型」のジャズ喫茶について。

私どものような心が狭い店ですと(場内笑)、客同士の会話にも「もう少し静かにしてください」と割って入ることもあります。そういう店の接客スキルは低いです。私の接客能力は涙が出るほど低いです。

それから、ウチの場合は半分は「WiFiカフェ」になってしまっていて、ヘッドフォンを付けてる客ってどうなのだろうという問題があります。ここを話はじめると長くなります。

いーぐる連続講演これからのジャズ喫茶を考える

福地 ロンパーさんがえらいのはね、ヘッドフォンはつけないでくださいと書いてるわけでしょ、ウチはねえ、OKにしちゃってるのよ。つらいんですよ、わりと。

齊藤 お客さまが店に入ってきたときに、先にいるお客さまがみんなパソコンをカチャカチャやってて、なかにはヘッドフォンをつけていたりすると、「はたしてここはジャズ喫茶なんだろうか」問題が発生するのかなと。(ジャズ喫茶のつもりで来たお客さまに)こういうふうに思われちゃうことがつらいんですよ。

福地 将来的にはジャズ喫茶は「コミュニケーション型」と「場所貸し型」、どっちのほうにいくべきだとお考えなんですか?

斎藤 わたしは「コミュニケーション型」のお店ができる能力がなかったんです。

「コミュニケーション型」のお店ができる能力がない人間はもうあきらめるしかなかったのか、というときに「場所貸し型」もあるかもしれないよということは申し上げておきたかったです。

福地 「ちぐさ」はどっちですか?

 ウチとしてはもちろん音楽を聴いていただくために営業しているので、明らかに音楽とまったく無関係に盛り上がったり、音楽をまったく聴いていないというお客さまにたいしては、静かに聴いているお客さまへの配慮として「接客対応」しますね。

福地 手を汚しますよね

 そうですね、うーん、まぁ、でもお店によってカラーとかスタイルがあって、何か正解があるわけではないと思うので。

ジャズ喫茶って、せっかくそれぞれの個性があるんだから、それぞれがみんな生き残れるような流れをどうにか作れればいいなと思って、今日は来ました。

福地 島さんも中村さんも「ダウンビート」の次期店長もみんな同い歳でしょ? いま30歳ですよね。横浜はアツいな、かっこいいなと思いました。

では、島さんが持ってきてくれたジョン・コルトレーンの『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード・アゲイン』をかけてください、お願いします。

 はい、私の青春です。お願いします。ほんとはB面を聴いていただきたいんですけど、長いのでA面2曲目の「Introduction to My Favorite Things」。ジミー・ギャリソンのベース・ソロです。

ジョン・コルトレーン/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン!
ジョン・コルトレーン/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン/インパルス/1966年録音

(次のページへ続く)

「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

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