これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム

 続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶

次に、ジャズ喫茶のバー化の問題とかいろいろありまして、むかしはバー化は忌避したんだけど、いまは容認している傾向にあると思います。また、接客スキルは昔はだめだったんだけど、いまはふつうになっているとか。

ここらあたりの噛み砕き方が私はやや甘くて、ロンパーチッチの齊藤さんにお話いただければと思います。

齊藤 お手元の資料の2枚目に「持続可能なジャズ喫茶のために」という大上段に構えたタイトルと、その裏に「現在のジャズ喫茶、ふたつの類型」というタイトルのレジュメがありますが、この2つについてお話したいと思います。

持続可能なジャズ喫茶のために/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成

持続可能なジャズ喫茶のために/齊藤外志雄(ロンパーチッチ店主)作成

私は4年半、お店をやってきて、いろいろありました。まずこの資料の中に入っていく前に申し上げますと、最近、ご定年されたお父様方が、ジャズ喫茶をやるかといって始めるケースがあります。つぶれるんですね、1年ぐらいで。

そういうお話を聞くにつれ、すっごく腹が立つんですね。こっちは命削ってんのに定年でできたお金ではじめてみて、1年でつぶれちゃったけど人生いい経験になったなあというのは許せないんです。こっちは命削ってんだから、削ってほしいんですね。

このまとめはそういう思いをちょっとやわらかい言葉で書いたつもりなんです。読み上げつつお話したいと思います。これは私個人の意見にすぎません。ほかのパネリストの意見とすりわせたものではありません。けれども私自身は心からこれを信じています。

齊藤外志雄/ロンパーチッチ店主

齊藤外志雄/ロンパーチッチ店主/1978年生まれ/2011年、東京都中野区新井薬師に「ロンパーチッチ」をオープン、「新感覚のジャズ喫茶」として人気を集める。今回のシンポジウムでは自ら「狂犬役」を買って登場。/ロンパーチッチ:東京都中野区新井1-30-6第一三富ビル1F TEL03-6454-0283 http://www.rompercicci.com/

ジャズ喫茶とは商売です。

商売というのはお金のためにやることです。文化事業ではないということを私は信じております。

いままでの福地さんのお話はずいぶんと文化に寄っていましたので、正直、私は聴いていてイラっとしていましたけれども(場内笑)、ジャズ喫茶は文化事業ではなく、ましてや趣味でもありません。お金のためにやる行為です。これは強く主張したいところです。ここから話が始まります。では商売とはなんでしょうか。

商売とは、始めるものではなく、続けるものです。

いいオーディオ機器を持っているからこれを活かすためにジャズ喫茶をやってみたい、老後のひとつの生きがいのためにやってみたいと思われる方は多いと思います。そしてジャズ喫茶をつくりました。しかし、オープンした、やったー! がピークではいけないんですね。続けていかないといけません。

続けていくとは何か。自己目的化だと思うんですね。食べるためにやるんです。「やったー」がゴールではいけません。

自己承認要求を満たすためにやるものでもないですね。続けるためにやるんです。始めちゃうとイヤでも続けるためにやることになるんですけど、そうなると、続けるという意志がないと心が折れちゃいます。

商売を続けるためには【売上】と【モチベーション】が必要です。

私は続けていくためには何が必要かなと考えたんですが、結局この2つが残りました。

まず売上げ、お金ですね。それからモチベーション。やる気がないと続かないですよね。この2つをなくさないために頑張るのが商売なのかなと。売上げとはなんでしょうか。

売上は【客数×単価】です。

もうほんとに厳然たる事実です。ビジネス講座みたいですね、すみません。

商売を維持するための最低ラインを認識しておくことが重要です。お家賃というのがあるんですね。お家賃は払わなくていいというケースもあるでしょうが、そうでない方はお家賃を払わないとけません。

家賃は払わなくていいという方でも売上げこそがモチベーションということはあります。たとえば一カ月の売上げが10万円だと心が折れるんじゃないかと思うんです。心が折れないためにはある程度の売上げは必要です。

話を戻しますと、ジャズ喫茶の世界で昔といちばん違うのはお客さんの数です。ずいぶんと少なくなっていると思います。

お客さんが少なくなっている以上は客単価をあげていかないといけないんですが、客単価がメニュー単価かというとそうでもないんですね。メニュー単価が低くてもたくさんオーダーがあれば売上げは増えるということになりますが、ここでジャズ喫茶という世界には、〝2杯目の壁〟という伝説があるんですね。

ジャズ喫茶のお客さんというのは、2杯目をぜったいに頼んでくれない。そういう伝説がございまして、これをなんとかしなくてはいけないんです。

寺島靖国さんの『JAZZ雑文集』(DU BOOKS)という本のなかに涙なくしては読めない一節があります。

茅場町の某ジャズ喫茶が閉店になったときの寺島さんの感動的なお話がそこに残されています。その話のあとに、「これからうちは2杯でいこう、2オーダーだ」と宣言している勇ましいエッセイもありまして、昔は読んでもなにも感じなかったものが、立場が変わるとこんなに泣けるものなのか…

福地 寺島オーナーのジャズ喫茶「メグ」の新井店長さんも会場にみえてます。

(ここで吉祥寺『メグ』の新井店長が客席より一言)

新井 寺島の言うことは半分以上はウソなので気をつけたほうがいいですよ。まともに受け止めると人生ムダになりますから(場内笑)。ジャズ喫茶のおやじが言うことってそういうものなので。半分はほんとうなんだけど、半分はウソですから(場内笑)。

齊藤 『JAZZ雑文集』、全700ページのなかで、20ページぐらいはほんとうにいいです(場内笑)。ぜひみなさんお読みになってみてください。

次にモチベーション、これが売上と同じくらい重要なんですね。

モチベーションは、【店をとりまく環境】ならびに【お客さまとの関わり】によって変化します。減らさないことが重要です。

「店をとりまく環境」って何かなと具体的に考えてみると、たとえば雑誌社からとつぜん電話がかかってきて、ジャズ喫茶特集であなたの店を使いたいんですって取材の申し込みが入ります。お店を始めて1年ぐらいだと気持ちがすごく盛り上がるんですね、やったー、ウチもとうとう認められたって。

しかし、当日、ものすごい遅刻してジャズについて何も知らない人がへラヘラ現れて、こっちが言ってることが伝わってるのかないのか、わからない感じで取材が終わって、それでゲラを送りますからねと言ってた期日よりも5日ぐらい遅れてゲラが送られてきて、急いでいるので今日中に送り返してくださいといわれて、それで読んでみたら話した内容とぜんぶちがってて、それを書き直して雑誌社に送る。そこまでぜんぶ含めても、雑誌社の取材というのは盛り上がります。モチベーションは上がります。

それから食べログ、これはモチベーションが下がります。あとはお客さまのSNS。お店の人間というのは業が深いもので、どうしてもエゴサーチしてしまいます。これもモチベーション下がります。

それから【お客さまとのかかわり】は、おもに下がります。いいお客さまでも残念ながらモチべーションはあんまり上がらないんですよね。とてもいいお客さまというのが1000人に1人ぐらいらっしゃって、そういうときはぐわーんと上がるんですけど、100人のうち95人ぐらいはいいお客さまで、残りの5人ぐらいがちょっとむずかしいお客さまで、そういうときに少しずつ削られていきます。

なかにはどかーんとこっちが落っこちるようなお客さんも。ただそこで、落としきらないでうまく明日につなげるということが大切ですね。モチベーションが大切だよといいながら下がる話しかできなかったんですけれど(場内笑)、なんとか落とさずにがんばっていくことが大切ですね。

(客席のウェブサイト『JAZZ協同組合』主宰 Jazz協同組合 組合長から質問)

Jazz協同組合 組合長 すみません、どういうお客さんがいいお客なんですか?

齊藤 いらしてくださって、ご注文をくださって、静かにお過ごしくださって、2時間半以内に帰ってくださるお客さまですね、それか、2時間以内に追加のオーダーをくださるお客さまですかね。3時間ぐらいたつとちょっと困っちゃいますね…。

福地 齊藤さんからは怒られてしまうかもしませんけど、私にとっていいお客さんというのはは〝ジャズ侍〟と呼んでいる種類のお客さんがいまして、はじめは怖い感じで入ってくるんですね。

それでCDばっかりかけてると、「この店はCDだけなんだなあ」と大きな声で…ほんとはよくないお客さんなんですね(場内笑)。 そのとき私はちょっとレコードで音を出して、お客さんの耳元へいって、目を合わさずに「枚数は少ないですけど、近い傾向のものあればなんかかけますから」って言ったら、その怖そうなお客さんが一転笑顔になって、「いやあ、店主のおすすめでいいから」と、そこで一気に友情が(場内笑)。後日その人がわきあいあいと女性を連れてきたり、ライブをやったりして関係が深まったり。

でもこれはイレギュラーなパターンでして、本来的には齊藤的ロジックが正しいんですけど、茶会記的事例もあると。ジャズ侍との友情関係(場内笑)。

斎藤 ジャズ侍のみなさま、ぜひ茶会記に足をお運びください(場内笑)。

いまのお話で気になることがありまして、おひとりさまでいらしたお客がおふたりさまになる、「おひとりさまからおふたりさま」問題という。

これについても寺島さんが、タイトルは忘れてしまいましたけど何かの本に書いてらして、ブロサッム・ディアリー好きの女の子がひとりで来たときにはよかったのに2人できたときにはうるさくなっちゃったという。

昔読んだときはへーっという感じでしたけど、いまは涙がこぼれ落ちるんですね。おひとりのときは理想的な客だったのに…。

そのとき私どもが声の大きさを注意してしまうと、だいたい、そのお2人とも失ってしまいます。

話がずれましたのでつぎに行きます。

ジャズ喫茶はどういうときにつぶれるのか。

ジャズ喫茶は【売上の見込みちがい】による資金繰りの悪化、ないしは開店時のモチベーションが維持できない【やる気の喪失】によって潰れます。

売上見込と申しましたけど、見込めるほどの華やかな売上なんて、もちろん私どもにはないです。夢を見ないというか、これぐらいはいけるはずだという考えだと届かないです。

見込みをかなり低く持っていただいて、私どものように生活レベルを下げていただいて、できれば霞を食うくらいまでいってなんとか続けていかないとということになります。

それから開店時のモチベーション、これはほんとにオープンのときはいちばん盛り上がっちゃうんですけど、どうしても維持できなくなっちゃうんですね。

そうすると開店時間がどんどん遅くなったり、臨時休業がどんどん増えていったり、「しばらくお休みします」という貼り紙が貼られたまま再開される日がこない、というような感じで閉店になってしまいます。

最後に、

続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶です。

ある店が惜しまれつつ閉店となったとき、ここは魂があるお店だったからお客さんと相容れない部分があったんだよな、本物だったからこそつぶれたんだよな、みたいに考える方って、とても多いと思います。または営業方針をライト方向に切り替えつつ続いている店について、ここは魂売っちゃってるよね、みたいに考え方も多いんじゃないかと思います。

でもやっぱり「続けないと」という思いがあります。「続くジャズ喫茶が、いいジャズ喫茶です」、最後はこういう宣言でお話を終わらせいただきます。
(次ページへ続く)

「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

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