網走 デリカップ / Delicup

網走 デリカップ / Delicup

オホーツクの海とヨットと深煎り珈琲とジャズ

網走「デリカップ」ジャズ喫茶案内

日本の東端を走るJR釧網本線の終点、網走。このオホーツクの海に面した町のほぼ中心部に「デリカップ」がある。マスターの菊地荘一さんは、毎朝店の前に焙煎機を持ちだし、歩道でその日必要な分だけの生豆を焙煎する。

「外に焙煎器を出して作業をするのは、店の蛍光灯だと豆の色がよくわからないからなんです。その日の天候をみながら太陽の下でやるしかないんですよ。いまは“自家焙煎の店”が増えましたけど、ボタンを押して機械に任せるだけじゃあね、手動でやらないと。これは数年の経験でできることではないです」

菊地さんの実家は東京の米屋だった。菊地さんが珈琲の仕事にかかわるようになったのは、若いときに単身ブラジルに渡ったことがきっかけだった。

「横浜から密航するつもりで貨物船に潜りこんだものの、見つかっちゃって。トラブルになるのが面倒だったようで無事にブラジルに入国できました。航行中の約1カ月間は旅費のかわりにずっと働かせられました。

「ところが、船長がその賃金分を貯めておいてくれていて、下船するときにぜんぶ私にくれました。昔の人は粋なことをするもんですね」

リオデジャネイロに着いたのち日本人の多いサンパウロで過ごすが、結局、「気が弱いもんだから早々に帰ってきた」。

帰国後は、北海道の老舗珈琲店「函館美鈴」系列の喫茶店で働き、店長も務める。

本業は画家でボヘミアン気質の強い菊地さんが網走に定住する気になったのは、この地の水が抜群に美味しくて珈琲に適していることだった。

網走市の水道水の原水は、屈斜路湖を見下ろすモコト山由来の湧き水が使われており、その水をそのままボトリングした商品が販売されているほど、その水質への評価は高い。

「この町の水道水は、厚生省が認可する最小限の塩素しか入っていない。これが珈琲にはうってつけなんです。ここの水を飲んだときに、ぜひここで喫茶店をやりたいと思いました。私がジャズに入るきっかけもそこからでした」

店名の「デリカップ」は、菊地さんが以前勤めていた函館美鈴のブランドから暖簾分けをしてもらった。

この店は以前は「バド」というジャズ喫茶だった。内装は菊地さんが図面引きから工事まですべて手作りで1カ月かけて改装した。

菊地さんは地元のヨットクラブの会長を務めるヨットマンでもあり、いまも地元の大学生たちにヨットを教えているが、その菊地さんらしく、店の内装はヨットのキャビンをイメージしたものだ。

また床は北海道産の赤レンガを敷いた堅牢なつくりに替えた。

「レンガの床にがんがん水打ちするんですよ。レンガには保水機能があって部屋を温めると床のレンガから水分が上がってきてすごくあったかくなる。天井や壁は木なのでシケ(湿気)ないしね」

大工経験のまったくなかった菊地さんが手探りで作った内装だが、40年近くたった今も手直しをすることなくきている。

オーディオは、近所の電気店主増田崇さんが真空官アンプの設計をはじめ、一切を手がけた。

やがて増田さんのニックネーム“熊さん”にちなんだ「ベアーズ」というジャズサークルがこの店を拠点に発足し、開店3年目に今田勝のソロライブを店で行なった。

その後ベアーズは、81年のレイ・ブライアントをはじめ、アート・ペッパー、ジャッキー・マクリーン、ヘレン・メリル、ジュニア・マンス、デューク・ジョーダン、ロイ・ハーグローヴ、マーク・ジョンソン、エディ・ゴメスなど、世界のトップクラスのジャズメンをこの網走に招聘した。

また網走ジャズオーケストラ公演など、地元のジャズ演奏家たちの活躍の場もコーディネートしてきた。この店にジャズ評論家副島輝人氏を招いて映画『真夏の夜のジャズ』の上映会を開催したこともあった。

「デリカップ」の歴史は網走のジャズの歴史と深くつながっているわけだが、その間、ずっと店を支えてきたのは夫人の《レイコママ》だ。

木の板に書かれた店のメニューの文字(いちばん上の写真)や店の看板のロゴはカリグラフの技術を修得したレイコママの手によるもの。いまではママがサイフォンでいれる珈琲をめざして町の人たちがやってくる。

店の味を代表する「デリカップブレンド」は、酸味が少なく苦味の強い極深煎り(フルシティロースト)。

菊地マスターとレイコママが40年をかけて創り上げた網走の珈琲だ。(了)

網走「デリカップ」ジャズ喫茶案内

網走「デリカップ」ジャズ喫茶案内

Delicup デリカップ

  • 店主:菊地荘一/創業:1977年5月
  • 住所:北海道網走市南6条東2−7
  • アクセス:JR石北本線「網走」駅徒歩18分、JR釧網本線「桂台」駅徒歩7分
  • TEL 0152-44-4519  月〜土10:00〜22:00(L.O 22:00)日・祝 10:00〜21:00(L.O21:00)(休:第3水曜日)
  • 席数:17席(喫煙可)
  • メニュー:デリッカップブレンド400円、各種コーヒー400円〜、紅茶400円〜 トースト各種400円、ケーキ各種300円、ケーキセット(コーヒーか紅茶)650円

<AUDIO>

  • ターンテーブル:テクニスSL−1200MKⅡ/カートリッジ:シュアーM44G /CDプレイヤー:DENON
  • プリアンプ:マスダデンキオリジナル(12AX7真空管×3本)/パワーアンプ:マスダデンキオリジナル(6L6GC真空管、プッシュプル方式)
  • スピーカー:JBL LE8T (エンクロージャは米松仕様)、ビクターSX-3(エンクロジャー)+コーラル20㎝フルレンジ

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「ジャズ喫茶案内」運営管理人。1959年生まれ。高知県出身。ジャズ喫茶初体験は18歳。ジャズライブ初体験は1978 年、 ジャズ喫茶「アルテック」(高知)でのビル・エヴァンス・トリオ。東京での出版社勤務を経て2013年、名古屋移住。jazzcity代表。

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